へら鮒天国TOP > 特集・記事一覧 > 稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第1回 大会試釣のプロセス 萩野孝之のチョーチンウドンセット


  さて、へら鮒釣りには色々な楽しみ方があるが、今回取り上げた競技の釣りもそのなかのひとつ。取り分けメジャーと言われる全国規模の大会はおいそれとは勝つことができない、いわば究極の競技の釣りである。ワンデートーナメントとは異なり数ヶ月間に渡開催される予選や、二日間に渡る全国大会決勝戦は、トップトーナメンターといわれる人達でさえ勝ち抜くことが困難と言われる大きな壁となって立ちはだかる。そんな厳しいメジャー大会の中でも取り分け勝つことが難しいと言われるのが『シマノジャパンカップ』であろう。その大会で過去2回の優勝と言う輝かしい実績に加え、開催された15回のうち全国大会に進めなかった大会は僅か1回という、まさにJC(ジャパンカップ)の申し子、ご存知萩野孝之が今回登場のアングラー。
初回ということもあり、図々しくも取材スタッフは今年度全国大会決勝のステージ『へら学の森泉園』でのプラクティスに臨むという萩野に密着。リアルな実釣を通して明かされる、メジャー大会に臨むための試釣のやり方や心構え等のメンタル面に至るまで、未来のトーナメンターを目指す貴方のために参考になる手引きを紹介する。
 
     
清遊湖での予選を通過した後、すぐに全国大会決勝会場であるへら学の森泉園に照準を合わせた萩野は、取材日の時点で既に2週に渡って竿を出していた。それは例会やプライベートでの釣行を含めてジャパンカップの決勝戦に照準を合わせていることを物語っている。そして取材翌日もまた試釣日に当て、仕事の都合がつけば大会に合わせて新ベラが放流されるという前日にも竿を出したいという。ここまで徹底した下準備が出来る参加者は少ないかもしれない。しかし私はこうした状況を羨望の気持ちだけでは決して見られない。むしろすべてをひとつの目標に向けることができる環境を整えられることを、良いお手本として見習うべき点と捉えている。
さて、まずは萩野が考える試釣とはどのようなものであろうか。一般的にはどのような釣り方が最も釣れるのか、自分の釣りがどの程度決まるのかを中心に、エサのブレンドは?タッチは?タックルセッティングは?と色々と試しながらベストの釣り方を煮詰めていくものだが、萩野の試釣は些か考え方が異なるようだ。確かに釣り場の状況を探り、よりベターな釣り方を模索する場であるには変わりはないが、試釣は自分ができない釣りを試す場。言い換えればライバルである他のトーナメンターの釣りを真似て、自分の釣りに吸収する場と捉えているようだ。
聞きようによってはかなり余裕のある言葉に聞こえてしまうが、真実を知れば知るほど彼のフトコロの深さ、大きさを感じずにはいられない。彼の言葉を借りるならば、自分の釣りは黙っていてもできるのは当たり前で、もし試釣の際に自分よりも釣れる釣り方をしている参加者がいれば「モノマネ」でも良いからとりあえず真似してみて、もしそれが自分のものになれば実戦での強力な武器になると同時に、メンタル面でもかなりのアドバンテージになるという。事実そうした状況で吸収した釣り方で本番に臨み、好成績を残した例は数知れないという。
なんという貪欲さ、なんという探究心。彼ほどの技術レベルのアングラーがこうした考えの下日々精進し進化して行くことを思うと、生半可な努力では到底太刀打ちできないことは明らかだ。しかし読者諸兄が僅かでもレベルアップし、一歩でも彼に近づこうと思うのであれば、彼の考え方や取り組む姿勢は大いに参考になるに違いない。
 
   
 
   


   
  今回の試釣で萩野は先ず短ザオでのチョーチンウドンセット釣りを選択した。これは取材スタッフからのリクエストもあったが、現在の泉園で最も手堅い釣り方であり、彼自身先ずは本命と目される釣り方でどれくらい釣れるものかを確かめておきたかったからに他ならない。準備が整い実釣スタートしたのが午前7時20分。以降彼の釣りを時系列で追ってみよう。  
 
■7:20
バラケは直径25mm、クワセは長さ8mm程度でエサ打ち開始。へら鮒が寄り始めるまでは毎回のようにトップが沈没するくらいに深くナジませ、2〜3回縦サソイをかけてトップを残す。
 
■7:40
ウキは微動を繰り返すが正体はジャミ。未だへら鮒らしき強いアタリは見られない。
 
■7:48
縦サソイの戻り際に、水中まで引き込む向こう合わせの消し込みアタリでファーストヒット。
 
■8:05
縦サソイの後、水面上にトップ3目盛りを残したところで静止させていると、フワフワとサワリが表れたと思う間もなく 「ズバッ」と消し込みヒット。

■8:10
1ボウル目を打ち切り2ボウル目に(※使い切る約10分前には2ボウル目を準備)

■8:20
時折カラツンが出るもののウキがフワフワしてアタリが決まらない状況から下ハリスを40cmから30cmに詰める。
 
■8:35
タナをしっかり作って分厚い釣りを目指したが困難と判断し、クワセを動かしつつ上層のヘラを追わせながら釣り込む方法にシフトチェンジするためにPCムクトップウキに交換する。 【アドパンテージPCムクトップ ボディ9cmタイプ:トップ1.0mm径PCムクトップ20.5cm/ボディ羽根二枚合せ6.2mm径9cm/足1.0mmカーボン8cm/オモリ負荷量≒1.5g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中9目盛り出し(ウドンをつけて8目盛り出し)】
 
■8:40
1ボウル目を打ち切り2ボウル目に(※使い切る約10分前には2ボウル目を準備)

■8:45
「試しに」ということで『Sレッド』の標準作りのバラケに交換。数投は良い感じの動きになり2枚ほど釣れたものの、再びモヤモヤしたトップの動きに戻ってしまう。
 
■9:05
エサ(仕掛け全体)の沈下速度が早く、レスポンスの低いヘラブナが追い切れないと判断してウキのサイズダウンを図る。 【アドパンテージPCムクトップ ボディ8cmタイプ:トップ1.0mm径PCムクトップ19cm/ボディ羽根二枚合せ6.2mm径8cm/足1.0mmカーボン8cm/オモリ負荷量≒1.2g/エサ落ち目盛りは全9目盛り中7目盛り出し(ウドンをつけて6目盛り出し)】

 
■9:10
ウキの動きは良くなりつつあるが、今一クワセへの反応が悪いとみてウドンから力玉(さなぎ漬け)に切り替える。以降交互に打ち分けてその時々で反応が良い方をチョイス。バラケも元のブレンドパターンに戻すが、ここまでの手直しは開きが悪いと判断したときは手水でシットリさせてバラケを促進し、バラケ過ぎと判断したときは『BBフラッシュ』もしくは『段底』で開きを抑えていた。また経時変化によるネバリを感じたときは、基エサをひと握り加えてネバリを解消した。

■10:00
今までの対応で劇的な状況の好転が見られなかったためすべてをリセットし、タックルもエサも一旦スタート時のセッティングに戻し再開。以降一枚ずつじっくり拾う釣りに徹する。ここまでの時点で時間当たり5〜6枚が限界と分析。
 
■10:20
萩野と背中合わせでサオを出していた知人の釣りを見て、極端な小ウキの方が釣れるペースが良いと判断。再度ウキの交換を行う。
【アドパンテージパイプトップ ボディ6cmタイプ:トップ1.4mm径パイプトップ10cm/ボディ羽根二枚合せ6.2mm径6cm/足1.0mmカーボン7cm/オモリ負荷量≒0.8g/エサ落ち目盛りは全8目盛り中6目盛り出し(ウドンをつけて5目盛り出し)】
 
■10:30
オモリ負荷量が小さ過ぎて上層のガサベラに止められてしまうものと危惧していたが、意外にもエサが持って深くナジミ、それまでよりも強いアタリが出る確率が増した。以降コンスタントにヒットを重ね、この時点では時間7〜8枚を見込めると分析。このセッティングがとりあえずの正解と判断する。ちなみに翌日の試釣はこのセッティングでスタートし、前日との釣れ方の違いを検証するという。
以上ここまでが実釣のトレースだが、この時点で既に萩野は他人の釣り方をひとつ真似して、見事に自分の手の内に入れてしまったのである。以降は更に別の釣り方を試すべく、先ずは12尺でのペレ宙。さらに13尺での浅ダナ両ダンゴ。そして最後は13尺での浅ダナウドンセットと、本命候補になりうるすべての釣りを試してこの日の試釣を終えたのである。
それにしても彼の状況判断の速さ、そして的確さには驚かされた。さらに改善の兆候が見られない場合の見切りの早さと、次の一手を繰り出す準備の周到さにも目を見張るものがある。例えばウキの交換時に既にオモリ合わせを済ませてあるものを使うとか、交換するサオにはそれに見合った仕掛けが既に巻き付けられているとか。トップトーナメンターとしてはおそらく当たり前のことなのかもしれないが、その淀みない一挙手一投足は日々の修練の賜物であり、大いに見習うべきところであろう。

     
ここ数年広く知れ渡った縦サソイ。元来短ザオチョーチンウドンセット釣りで始まったものだが、近年チョーチンヒゲトロセットやチョーチン両ダンゴでも行われるようになり、今日その釣り方は広く認知されるようになった。その一方で縦サソイそのものに異を唱える声も少なからずあるのも事実。いつの世でもそれまでの常識にない新しい方法の誕生に対する拒絶や風当たりは強いものだが、今日スタンダードと言われる釣法のなかにも、かつては異端と見られていたものも少なからず存在し、今ではなくてはならない釣り方として定着している事実がある。
さて少々話は横道にそれてしまったが、もちろん萩野自身はこの釣り方に磨きを掛け、既に自分のスタイルも確立している。その証拠に自身が手掛けるへらウキ『一志』の今秋の新製品として、今回の試釣でも使用した短ザオチョーチンセット用の『アドバンテージ』が発売される。バリエーションは同一のボディに異なるトップ(パイプとPCムク)が装着された2タイプ。もちろん縦サソイを効果的に活かすポテンシャルを秘めたハイスペックフロートであり、濃いオレンジ色のボディカラーはその名のとおり装着するだけで優位に立てそうな、そんなワクワクするような気にさせてくれるなる新製品だ。
その新ウキ『アドバンテージ』を使った縦サソイだが、闇雲にただ縦に動かしても釣れるハズもなく、そこには萩野流のサソイ方の法則があるので以下を参考にされたい。
 
 

1.打ち始めやへら鮒の寄りが少ないときはバラケを大きく(概ね25mm前後)付けて、トップが完全に沈没するくらいに深くナジんだところで、トップ付根が水面に出るくらいまでサオ先をゆっくり上げて大きくサソイを入れる。


2.へら鮒が寄ってアタリが出始めたら、出来る限りトップ先端が水面上に残るようなエサ付けをしてナジミ幅をコントロールする。万一沈没してしまってもここでは大きく動かさず、トップが2〜3目盛り水面上に出るくらいの小さな動かし方でサソイを入れアタリを待つ。


3.サワリが連動しているときはサソイを入れず静かにアタリを待つが、サワリが途切れたり断続的に不安定な動きをしているときは1〜2目盛り程度小さくサソイを入れる。

 
 
  基本的にはこの繰り返しとなるが、重要なのはサソイを入れるタイミングもさることながら、本来はサソイを入れなくてもナジミながらのサワリに連動して、トップが沈没する間もなく深ナジミした状態から「ズバッ」とアタること。萩野はこのタイミングを「ハリスの倒れ込み」と表現するが、こうしたアタリが多く出るようになればチョーチンウドンセットは時合い完成に近いといえる。しかし現実はこうした理想的なアタリばかりではない。取材時もかなりの食い渋り状態であり、萩野はチェンジ オブ ペースで縦サソイを繰り返しながら、サオ先を軽くあおった後の再度のなじみ際に「ダッ」と決めるアタリを導き出していた。
ここで注目しなければならない点がある。それはいずれのアタリパターンであってもバラケが十分に残っている状態で食わせるということ。試しにと言って、バラケが抜けた後ウドンだけでアタリを待ってもらったところ明確な食いアタリはほとんど出ることはなく、萩野自身様子見で待つことはあっても、たいていはバラケが残った状態で食わせることを目指しているという。このことからチョーチンウドンセットでは常にクワセの位置よりも上からバラケの粒子を降り被らせることが重要であることが分かる。
厳寒期であってもバラケの粒子が長時間タナに滞留し続けることはなく、たいていは寄っているへら鮒に吸われてしまうか、下層に沈下して行ってしまう。セット釣りでアタリを出せないでいる釣り人の多くがこのことを見落としており、クワセだけで待っていてもアタリは出るものだと考えている。確かに待っていてもアタリが出ることはあるが、冷静に観察してみるとアタリの数は圧倒的に少ないうえにヒット率も低いことが分かる。やはり一投ごとのバラケの粒子の降り掛かりがキモになっているのである。

 
 
     
取材時の実釣所見も含めて、この釣り方におけるエサ使いのキモについてまとめると、萩野流チョーチンウドンセット釣りのバラケは第一にタナまで持つこと。それは持たせるためのエサ付けテクニックを駆使するのではなく、ブレンドして作られたバラケエサのそれぞれの麩材の特性を活かして持たせ、且つ使いこなすことであるという。
ブレンドされた麩材の性質を見てみると『粒戦』は集魚力とタナの安定、さらには寄ったへら鮒をクワセへと誘導するための素材であり、『とろスイミー』は高比重な性質とネバリで他の麩材のつなぎ役を果たす。『パワー・X』は最強バラケの代表格で、『プ ログラム』はボソタッチでありながらまとまりが良い性質を見込んでのブレンド。『セット専用バラケ』はウドンセットのバラケには欠かせないベースエサで、『BBフラッシュ』はその特異なネバリでボソタッチのまますべての素材をまとめる。そしてこの中で最も重要な役割を担っているのが『プログラム』だ。本来は両ダンゴのベースエサとして世に送り出された麩材だが、ネバリをほとんど感じないサラッとした感触でありながら指圧だけで簡単にエサをもたせられるという、他の麩エサとは一線を画する特異な性質が近年のチョーチンバラケには不可欠だという。
一般的には深いタナにエサを持たせるためには練り込んでネバリをつけるか、あらかじめネバる素材を多めにブレンドする必要がある。しかしいずれのパターンも経時変化が早くなり、エサの開きが悪くなるという欠点がある。そこで頼りになるのが『プログラム』だ。基エサの状態ではほとんどネバリを感じないにも関わらず、指先でまとめたエサに軽く圧を加えるだけで簡単にまとまりエサ付けができることも驚きなのだが、さらに指先の圧加減だけで開かせたり締めたりできることが特筆すべき点なのである。近年チョーチンウドンセットのバ ラケは、慣れないとエサ付けもままならないようなボソエサをエサ付けのテクニックで持たせることがキモになる。つまり「持たないエサを持たせる」というのがキーワード。そうした相反するエサ使いを可能にするのがこの『プログラム』という訳だ。
当日萩野のエサ使いを見ていると、多少手水で基エサをシットリさせることはあっても、終日ボソエサを打ち切っていた。基本的には基エサを大きく変化させることなくカタボソタッチを軸にしたうえで、ウキやハリスワークといったタックルのアジャスティングでその日そのときの正解に導いていくというのがこの釣り方の基本であり、萩野流もそうした視点で組み立てられることを改めて知らされた。
 
   
  試釣に限らず、萩野は常に平常心でへら鮒と対峙している。それは大会本番の釣りでも変わることはない。事前の試釣はあくまで当日の釣りを組み立てるための情報収集であり、当日は先入観を持たずに精神的にも技術的(タックルセッティングやエサのタッチを含めて)にもニュートラルな状態で臨んでいる。こうした精神論やテクニックの習得は一朝一夕には不可能だが、競技の釣りに臨む姿勢や心構えの点では大いに参考になるところがあるのではないだろうか。そして最後に萩野はこう締め括った。 「試釣を含めて事前の準備はこれでもかと言うくらいに徹底してやる。やり残したことがあるとそれはそれだけで精神的なビハインドとなり、決して良い結果には結び付かない。それから試釣で決定的に良い釣り方が見つかり自信をもって臨むよりも、釣り方には多少の不安要素があっても大会中釣りながら考え、それを実行していくことで自分の思い描く方向に展開して行った方が結果として満足のいくものになっていることが多い。いずれにしても試釣、そして本番を通して全力で釣りに臨めば、順位はともかく思い残すことはない。」と…。

 
     

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