へら鮒天国TOP > 特集・記事一覧 > 稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第5回 普遍的底釣りこそ最強ウェポン 西田一知が魅せる両ダンゴの底釣り


  近年のへら鮒釣りは、以前にも増して変化のサイクルが短い混沌の時代に突入している。かつてのセオリーを踏襲していただけでは思うように釣りきれず、年を追うごとに変化(ある意味“進化”)する釣況に順応できなければ、決して満足できる釣果を得ることはできなくなっているのが実情だ。そんな現代へら鮒釣りにおいて古典的且つ普遍的ともいえる釣り方を軸に、かの関東へら鮒釣研究会で見事3連覇を達成。このたび栄えある第5代横綱に推挙されたマルキユーインストラクター西田一知が、彼の代名詞であり最強ウェポンと誰もが認める両ダンゴの底釣りで骨太の釣技を披露する。  
     
山上湖やダム湖での長竿の釣りを得意とする西田が愛用する底釣りエサは、へら師の間では王道とも言われ絶大なる支持を得ているブレンドパターン「夏・冬・マッハ」。底釣り三種の神器とも称され、オールシーズン通用する不動のブレンドパターンである。3つのうち最後に登場したのが’89年初冬に発売された「ダンゴの底釣り冬」であり、このブレンドが世に知られるようになったのは’90年代前半であり、振り返ると20年近く愛用されていることになる。 「ダンゴの底釣り夏」の登場は「ダンゴの底釣り冬」に先立つこと数ヶ月前。発売当初は「夏」の名称はなく「ダンゴの底釣り」というネーミングの底釣り専用 エサとして登場し、主に高活性期の両ダンゴの底釣りで実績を残している。当時は野釣り・管理釣り場を問わず何処の釣り場も3〜4枚/kgの中小ベラが主体で、一気に寄っては激しくウワズル難地合いに手を焼いていた釣り人は少なくなかったはずだ。そんな状況下にあってウワズリを最小限に抑え、アタリをコンスタントに出し続ける「ダンゴの底釣り(夏)」は、まさに底釣りファンにとっては救世主のような存在だったのである。そして時は流れ、魚影密度もへら鮒のサイズもアップした現在では、1枚/kg級の大型も当たり前のように釣れるようになり、こうした時代の変遷に沿うようにエサ使いも変化を遂げてきた。そうした流れのなかで“3種の神器”という普遍的なブレンドも更なるブラッシュアップを重ねて現在に至っている。 さて、西田自身もそうした変化をリアルタイムで経験してきたことで、今日押しも押されもしない底釣りのスペシャリストのひとりとして名を連ねるに至っている訳だが、彼がこのブレンドを愛用してきた最大の理由は釣れるからに他ならない。それは釣果という結果だけではなく、季節を問わずどのような状況であっても対応でき、且つ扱いやすいエサの性質が彼の釣りスタイルにマッチしていたからだ。その実績は過去の例会・大会の結果を見れば一目瞭然だが、そんな彼でも釣れないときやエサに迷うこともあったという。しかし、そんな時にこそ原点回帰に活路を見出し、壁を突き破ってきた。そう、彼の輝かしい釣歴の傍らには常に「夏・冬・マッハ」があり、彼を支え続けてきたのである。
 
   


   
   
■サオ
西田といえば長竿という印象が強烈だが、本人は特別長竿にこだわっている訳ではなく、人災を避け安定的に高釣果を得るためには必然的な選択なのだ。そのうえで重要なのが水深に見合った長さの竿を選ぶことが最重要ポイントだという。
野釣り場(とりわけ山上湖やダム湖)の場合、基本的にはボート釣りがメインとなる。ボートは桟橋や陸釣りとは異なり常に釣り座が前後左右に動いてしまう。その際竿先も同じように動いてしまうため、ウキの動きを干渉しないようにするためには若干の余裕が必要であるという。目安としては穂先からウキ1本分の長さ+10cm程度は開けるのがベターだ。【写真参照】
 
■ミチイト
管理釣り場に比べると根掛かりや木の枝にミチイトを絡めるなど、ストレスやトラブルが多い野釣のため通年1.0号を標準とする。また底釣りではタナボケを起こさないために伸縮の少ないものを選ぶことも重要なポイントである。
 
■ハリス
回転の速いエサ打ちと、なじみ際の早いタイミングのアタリを積極的に取る数釣り狙いが西田の真骨頂。このため大型ベラをじっくり攻めるのではなく中型主体に釣り込むため、基本的にやや細目のセッティングとなる。太さは通年0.4号を基準とし、長さは上40cm/下48cmが平坦な底での標準的な長さとなる。そして上40cmはほぼ固定し、カケアガリのポイントや底に凸凹があるところでは下バリのみ伸ばして段差を広げるのが西田流のハリスワークだ。
 
■ハリ
通年「グラン」4号を常用する。水深に対してやや小さめとも思えるサイズだが、早いアタリで確実に食わせるためには、エサが底に着いたときに丁度食い頃のタッチ・サイズになっていることが絶対条件で、そうした狙いをより明確にするためにはこのサイズで十分。むしろ大きなハリではエサが持ち過ぎたり、へら鮒が吸い込む際の抵抗となりカラツンを招く恐れがある。
 
■ウキ
パイプトップの底釣り専用タイプが西田の基準ウキ。水深に合わせてサイズを選択するが、平均よりもやや小さめ(オモリ負荷量も含めて)な点が特徴だ。これは食い頃のエサを底まで送り込む際、オモリの沈下速度が速過ぎると大きな抵抗を受けてしまい、エサがハリから抜けてしまう恐れがあるためだ。
 
 
 
底釣りはどんなスタイルの底釣りであっても、先ずは正確な底立てから始まる。大きめのタナ取りゴム(※形状と重さで底の状態が良い所と悪い所の使い分けをする)とフロートを組み合わせて、24尺一杯という水深にも関わらず手際良く、エサ打ち点を中心とした周囲40〜50cm四方の底の状態を把握する。取材フィールドとなった丹生湖(桟橋)では平坦な地底のポイントは皆無といって良い。西田が構えた中桟橋の突端付近では、トップの出方から判断すると横方向では左がやや深く縦方向では手前が深くなっているようだ。 トップ先端が1目盛り水面上に出る位置に目印のトンボを合わせると、6目盛り出しにセットしたウキのエサ落ち目盛りから約3cm深いタナで実釣スタート。エサ付けサイズは上下共に直径10mm程度とやや小さめで、ハリを押し込むように丸めたエサの中心に入れる。これはエサ切れを良くしてウワズリを抑止するためである。この時のナジミ幅は約4目盛り。西田にとってはこれが両ダンゴの底釣りでの標準的なナジミ幅で、バラケにグルテンのセット釣りでは3目盛り程度になるという。先ずはへら鮒が寄っていいない状態でのナジミ幅を確認することが重要で、確実にエサを持たせて安定的に釣り込むためには、自分が使うエサで何目盛りナジミがでれば適正なのかを、あらかじめ把握しておく必要があるという。つまりナジミ過ぎるときにはタナが切れ気味(浅い)になっている可能性があり、少ないときはエサが持っていないかタナがズレ過ぎている可能性があるという訳だ。
 
 
 
打ち始めの数投はウキに何の変化も見られない。朝の気温はマイナス3℃、水温は4℃以下という状況で両ダンゴという選択は、かなり高いハードル。否、むしろ無謀ともいえるチャレンジとも思われたが、西田の表情からは不安や困惑の色は微塵も見られない。それどころか泰然自若とした落ち着きの中で、直ぐにでも釣れそうな雰囲気さえ漂わせている。
打ち始めの時点では、サワリが無ければ即打ち返しがセオリー。最初からアタリを待つという選択肢はない。十投ほど打ち込んだだろうか。ナジミ際にサワリとは言い切れないほどのわずかな気配を感じた刹那、ジワリと1目盛り返したトップが「ズン」と重々しく押さえ込んだ。と同時に「シャッ」と軽快な水切り音を残し24尺の閃光Xが大きな弧を描く。軽さがウリの竿だが立ち上がりのトルクは意外に強くスムーズだ。西田のロッドワークと相まって7m近い水底からでも短時間でへら鮒が浮き上がる。デカい!春にはまだ間があるというのにややお腹が膨らみ始めた800g超級の肉厚地ベラである。
この一枚を皮切りにやや間が開くもののへら鮒の気配は徐々に濃厚になり始めた。そして2枚目はナジミ切った直後に「ダッ」と鋭く決めてこれまたアメ色の良型地ベラ。これにはスタッフは勿論、西田本人も驚きの表情を隠せない。この時期に両ダンゴの底釣りで地ベラのオンパレードとは恐れ入ったが、経験豊富な西田としては全く予想ができないことではないらしい。それは両ダンゴというエサ使いに徹することで、この時期グルテンを好む中小型の新ベラを避け、良型地ベラをメインターゲットとした釣りができるというのだ。
またアタリの取り方(出方)でも釣り分けが可能だという。新ベラはハリの怖さを知らないためにエサを口に入れている時間が長く、アタリは「モゾモゾ」と小さく動くものや「モヤ〜」と食い上げてくるパターンが多い。これに対して地ベラは落ち込みを含めて早いタイミングで食うことが多く、アタリも1目盛りくらい明確に「ツン」と決めるパターンが目立つ。この言葉が示すように、当日のヒットパターンはナジミ切ったウキがエサ落ち目盛りまで戻してからアタるという、いわば古典的な食いアタリではなく、厳寒期であることを忘れてしまうくらい早いタイミングのものが大半を占めていた。
西田が追い求める理想のヒットパターンがまさにこれであり、水中のイメージとしては張り切ったオモリ周辺に食い気のあるへら鮒を一旦寄せておき、丁寧なエサ打ちで徐々にタナを下げさせながら、水中を落下して行くエサを追わせる感じで、ナジミ際から着底直後に食い頃になっているエサを一発で食わせるというものだ。盛期にはこのパターンが面白いように決まると言い、高釣果がでるときはほとんどがこのパターンにはまる。
そしてカラツン対策もシンプルに行うことが大切だと言い添えた。基本的には合わせても乗らない最初のアタリを見送り2回目、3回目のアタリに狙いを変える方法がひとつ。さらにエサ付けのサイズをひとまわり小さくする方法も有効だという。つまりカラツンの原因は、そのほとんどがエサを食い切れないで起こるものと考え、早いタイミングで食い頃のタッチ・大きさになるようにアジャストするのが西田流のエサ使いのキモなのである。
 
 
 
 
   
  たまたまポイントのせいなのだろうか、それとも両ダンゴというエサ使いのためなのだろうか。西田の釣り上げるへら鮒はすべて尺上の地ベラばかりで、昨秋放流された3枚/kg級主体の7t強の新ベラは1枚も混じらない。この新ベラが群れで寄ってくれば彼が理想とするナジミ際の早いタイミングで食ってくるに違いないのだが… しかし、時間の経過と共に徐々にアタリは増えているので期待は持てる。ところがスタートしてから2時間ほど経った頃に突然北風が強まり、横殴りの吹雪となると後方から押されるように波立ち、右斜め前方への流れが生じてしまった。 ウキに目をやると一旦はナジんだトップがグイグイ流され、エサ落ち目盛りよりも1目盛り多く水面上に出てしまう。勿論これは食い上げアタリなどではなく、浅いところに流されたためにタナが大ベタ状態になってしまっているためだ。この動きを見た西田は次投から打ち込みポイントをウキの立つ位置よりも約50cm左手前に変更した。と、言葉で言うのは簡単だが、竿を振るのも困難なほどの風の中で、正確に狙ったポイントにエサを打ち込むことは至難の業。それを可能にしているのは彼の卓越した操竿テクニックに負うところが大きいことは疑うべくもない。 とかく腕力ばかりクローズアップされがちだが、こうした状況判断に加え繊細なロッドワークこそが西田の隠された一面であり、彼の底釣りを最強ウェポンと言わしめる所以なのである。 この投餌点の調整によりナジミ幅が深くなった(手間のやや深い所に着底している)が、流れに押されてもシモることもウキがせり上がることもなく、断続的だがサワリながら一定の距離を流れたところで「ムズ」と決めるパターンで1枚、また1枚と確実に釣果を伸ばす。厳寒期の実釣であるため致し方ないが、西田が理想とするナジミ際のアタリは少なく、当日ヒットさせたアタリの2割程度に止まった。  
 
 
   
  パワー系でグイグイ攻める豪胆無比な印象を受ける西田の底釣りは、外面からは計り知れない緻密さをもって核となしているところが特筆すべき点であると言えよう。なかでも両ダンゴのエサ使いは実にデリケートで、目に見えぬ水中のへら鮒の気持ちが分かるのではないかと思うくらいタイムリーなタッチ合わせの妙が垣間見え、野釣りこそ大胆且つ繊細なエサ合わせが必要であることを再認識させられた。勿論それを可能にしているのが“三種の神器”であることは言うまでもない。西田は言う。 「常に釣果を上げて結果を求められるプレッシャー(関べら3連覇など)は、正直言って結構つらいものがあります。野釣りは事前の情報収集から本番までの長丁場で、ポイント選定を始めとして試釣から釣り方の絞り込みまで実に多くの要素をこなさなければなりません。それだけに考えに考え抜いたポイントで本番を迎え、一投目を打ち込んでサワリが出始め、そして一枚目が釣れるまでのドキドキ感と、釣れた瞬間のホッとした安心感はなんとも言えません。僕はこのプロセス がとても好きで、これこそが野釣りの醍醐味だと思います。「夏・冬・マッハ」は今までも、そしてこれからも僕の釣りになくてはならないパートナーです。管理釣り場では結構若い人達も楽しんでいるようですが、野釣り場ではあまり見かけないのが残念です。間もなく巣離れが始まると釣果も一気にアップしますので、皆さんも是非野のフィールドにチャレンジしてください。勿論バッグには「夏・冬・マッハ」を忘れずに!」

 
   

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