稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第18回 その名も「凄麩」登場|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第18回 その名も「凄麩」登場

従来へらエサの開発というものは、年々変化するへら鮒の嗜好に合わせて行われる市場追従型が一般的である。そのためエサメーカーのインストラクターは常に現場での情報収集に努め、尚かつ自らの実釣を通してへら鮒が好むエサ、使いやすく釣れるエサを模索しているのである。
ところが、そうした流れとは端緒が異なる新エサが完成した。それはへら鮒釣りの基本を見据えた開発担当者の執念というか、へら鮒釣りに賭けた熱き思いが生んだ究極のへらエサの誕生と言えよう。その開発者こそ、ご存じマルキユーチーフインストラクター石井旭舟その人である。4月中旬の発売を目前に控えた今、氏自身10年以上も前から構想を温めていたという新エサの開発コンセプトやその特徴、更には使い方のポイントについて一足早くレポートをお届けしよう。

へらエサの基本はエサが持つこと!つまり、それは“芯残り”

プロフィッシャーマンとして多忙な日々を送る石井はその日、自らが率いる関東へら鮒釣研究会の例会日にも関わらず、快く新エサの取材に応じてくれた。釣り場は厳寒期のへら鮒釣りの聖地:横利根川。石井は大好きな信号下のポイントにマイボートを留め、17尺でやや深めのタナをバラグルセットの宙釣りで攻めていた。決して好調とは言えない釣況のなか、自らが開発に深く関わった新エサ「凄麩」をベースにしたバラケエサの最終チェックを兼ねての釣りである。

後方から石井の動作、特にエサの扱い方とウキの動きを見ていると、特に目立った動きをしている訳ではないにも関わらず、太めのパイプトップが装着された旭舟「太」はしっかりと深いナジミ幅を示し、その後ジワジワと一定のリズムで戻してくる。それは魚がサワっても変わることがなく、セット釣りで良くありがちな、バラケが途中で割れ落ちするような感じが全くと言って無いことに驚かされる。

「へらエサの基本は何と言ってもエサが持つこと。へら鮒がエサを食うまで確実に芯残りし、ハリのフトコロに残ることなんだよ。このことは何も両ダンゴに限った話ではなく、今日のようにセット釣りのバラケであっても同じことなんだ。最近はバラケを抜くセット釣りなんかも流行っているが、抜くにしてもそのタイミングが重要で、それをコントロールするのも持つエサであるからこそ自在に操れるということを忘れちゃダメだ!」


冒頭でも述べたが、およそ新エサの開発というものは、へら鮒の嗜好の変化に合わせて追従させる、いわば後追いスタイルで進められることが多い。もちろん一般社会における商品開発のプロセスである市場のニーズ調査に該当するリサーチ活動は行われているが、いかんせん相手は魚である。それまで目立った実績のない製品を、予測だけでいきなり投入するというリスクをあえて犯す必要はない。それよりも「最近はこうした釣り方の方が良く釣れるんだよな」とか、「以前とは違うタッチや比重、サイズのエサの方が良いね」といった、いわば釣り方の変化やへら鮒の嗜好の変化をいち早く察知し、それに合ったエサを如何に短期間で開発し市場に投入するかが求められてる。ところが今回の新エサ「凄麩」の開発に関しては、そうしたプロセスとは異なる過程を経ているという。

「エサのコンセプトというか、こういう感じのエサがあればもっと簡単にたくさん釣れるんだけどな、という漠然としたイメージは10年以上も前から持っていて、その間色々な麩材を使ってチャレンジしてみたけれど、理想とするエサの機能は得られなかったんだ。実際今日まで思いついた時からかなりの時間が経っていたので、正直いって諦めようかと思ったこともあったけど、でもエサで悩む多くの釣り人の力になりたいという思いと、流行(へら鮒の嗜好の変化)に左右されない究極の麩エサを作りたいという思いは誰にも負けたくなかった。そして、ようやく最近になってようやくイメージ通りの機能を持った麩ができあがり、それを使って更に試行錯誤を繰り返した結果、ついに「凄麩」が完成したんだ。」

使用タックル

●サオ
17尺(江戸川プロトタイプ)

●ミチイト
オーナーばり「ザイトへら道糸」0.7号

●ハリス
オーナーばり「ザイト・サバキへらハリス」上0.4号20cm/下0.3号60cm

●ハリ
オーナーばり 上「サスケ」7号/下「玉針」4号

●ウキ
旭舟「太」2番
【1.0-1.2mm径テーパーパイプ(セル)トップ12cm/6.5mm径一本取り羽根ボディ8cm/1.0mm径カーボン足7cm/オモリ負荷量≒1.25g/エサ落ち目盛りは全9目盛り中6目盛り出し】

●ウキゴム
オーナーばり 浮子ベスト2.0号

●ウキ止め
木綿糸

●オモリ
0.25mm厚板オモリ1点巻き

●ジョイント
オーナーばり へら回転サルカン20号

石井が語る「凄麩」の特徴 其の一:ボソタッチでもしっかり芯残り

取材の冒頭、石井の口をついてでた言葉がまさにこれだった。それだけに氏が最も苦心した部分であることがうかがえる。ボソタッチは本来開きが良いエサの特徴であって、その特徴を残したまま芯残りを良くするということは、ひとつのエサの中に正反対の性質を共存させるということを意味する。言葉にしてしまうとたったこれだけのことだが、これが存外難しい。 従来ならば、ボソタッチのベースエサにでんぷんやグルテン、更には増粘剤等が含まれた粘る素材のエサをブレンドするのが通例だが、こうしたエサ合わせはある程度釣り慣れていれば容 易に行えるが、多くの釣り人にとってはまずこれが高いハードルになってしまう。なぜなら、粘る素材は経時変化が早くなるうえに練り方ひとつでエサのタッチが大きく変わってしまい、安定した状態で使い続けることが難しいためである。常にエサのタッチを指先ひとつで敏感に感じ取り、状況に応じて的確に調整を加えるというテクニックは、一見地味な作業ではあるが、実は釣果を左右してしまうほど重要なことなのである。石井は言う。

「ボソタッチでも芯残りが良いエサを作るということは、10年以上前から俺自身のテーマであると同時に、エサメーカーとしてもへらエサのひとつの理想形を作り上げることを意味している。へら鮒はボソエサ(開くエサ)に寄せられてエサの芯に近づき、そのとき丁度良い膨らみ具合で芯が残っていると、我慢できずに食いついてしまうものなんだ。だから釣り人はこの開きと芯持ち具合をその日そのときにマッチさせるために、数あるエサの中から選びだした麩材を独自の比率でブレンドし、手水を加えたり練り込んだりして調整を加える訳だが、このエサ合わせという作業が必要以上に釣り人を迷わせていることを、我々は認識しなければならない。

ボソタッチと芯残り。この相反する性質が共存するエサができれば、それは間違いなく釣れるエサということになる。俺達の仕事は釣って見せることも大切だが、それ以上に簡単に使えて釣れるエサを作り上げ、皆に使ってもらうことの方が重要だと考えている。それもへら鮒の嗜好の変化による限られた期間内でのものではなく、未来永劫と言っては少しオーバーかもしれないが、それくらい長い期間に渡って基準となるべき麩エサを作ること。それも絶対に変わることのないへら鮒の摂餌欲求に基づいたボソタッチのエサを完成させることで、今後のへらエサの進むべき方向性を示したかったんだ。」

石井が言った10数年前というのは、まさにボソ系ダンゴエサの全盛期。実際にマルキユー㈱からもボソタッチを極めた初代「チョーチンだんご」が発売されていたが、当時加速し始めていた放流ベラの大型化と高密度化のうねりは、エサ持ち(芯残り)にやや不安のあるボソタッチから、確実にエサの芯が残るネバ系へと否応なしに変化対応を求めた。その結果生まれたのが現在も両ダンゴエサの主軸たる二代目チョーチンだんご「天々」である。 そして現在、ふたたび時代は巡り巡ってボソタッチを求めている。今度こそは当時の弱点であった芯残りという点を完全に克服した「凄麩」が時代を席巻する日は近い。

石井が語る「凄麩」の特徴 其の二:膨らみが良く、調整幅が広い

新エサの基本軸であるボソタッチという特性は、当然のことながら膨らみは良い。但しそれは単に速くとか広くとかいう次元の話ではなく、いつの時代においても通用する最適の速度(タイミング)と広がり(範囲)をもって「膨らみが良い」という表現をしている。さらに付け加えられた「調整幅が広い」という表現については、次の石井の言葉にそのすべてが集約されている。

「ボソタッチのエサの膨らみが良いのは、ある意味当たり前のことなんだ。この「凄麩」の本当に凄いところは、しっかりエアーを抜いてもタイミング良く膨らむこと。また軽くエアーを抜いただけのエサ付けでも確実に芯が残り、しかも割れ落ちしないところ。これは既に述べたところだが、更に凄いのが練っても膨らみ(開き)が失われないところ。それは指先に強いネバリを感じるくらい練り込んでも決して失われることはない。だからこそ凄いんだ。 両ダンゴの場合、食い気がないへら鮒に対しては軟らかく練り込んだエサが有効だ。そんなとき手水を加えながら徐々に練り込んで行く訳だが、その過程でどんなタッチであっても多少のスピードの差こそあれ、ウキがジワジワと戻す 膨らみ具合は変わることなく、最後の最後までハリのフトコロに残る特性は必ずやカラツンの軽減につながるはずだよ。 調整幅が広いということは単にエサのタッチを幅広く変えられるという使い勝手の面だけの話ではなく、「凄麩」は更にそうした調整をどんなに加えても、膨らみと芯残りの良さを失わない点が特筆すべきところなんだ。単に膨らみの良いボソタッチのエサや、芯持ちの良いだけのエサは既に存在するが、そうしたエサを駆使して理想の膨らみと芯持ちを実現するブレンドエサをを作ることは決してたやすいことではない。特に芯持ちについては、既存エサにおいてはエサの扱い方という面で釣り手に頼っている部分が大きい。つまり食うエサに仕上げるためには軟らかく小さな芯が必要なんだが、エサ合わせに慣れていない人では最後の最後にへら鮒にあおられて芯が残らずカラツンなんてことがある。いわゆるアタリ負けってやつだけど、ところが新エサに限っては確実に芯が残るので、とにかくアタリ負けしないんだ。これって凄いことなんだぜ!」

石井が語る「凄麩」の特徴 其の三:ブレンド相手の特徴を生かす応用範囲の広さ

新エサのパッケージ(取材時点では最終版の仮パッケージ)裏面には標準的な作り方とブレンド例が示されている。そこには単品使いを推奨する文言は見られない。つまり「凄麩」に他のエサをブレンドして使うことを暗に勧めているということなのだろうか。

「へらエサの開発には単品使いとか専用エサという方向性は確かにある。これはブレンドの煩わしさから釣り人を開放し、手軽にへら鮒釣りを楽しみたいという人や、多種多様な釣り方によってどんなエサが良いのか分からないビギナーにとっては必要不可欠なコンセプトなん だ。しかし単品使いや専用エサが必ずしも簡単に釣れるかというと、その答えはハッキリ言って“No”だ。

実際にフィールドでサオを振っていると分かるが、単品や専用エサでもそれなりに釣れるが、あとひとつ何かを加えればもっと簡単に釣れる、たくさんアタリがだせるという場面は決して少なくない。「凄麩」においてはそのポテンシャルの高さは実証済みだが、同時に無限に広がる可能性についても期待している側面があるのも事実。つまり開発の過程で試してきたブレンドパターンがベターではあっても決してベストではなく、むしろこれから発売されてから皆さんに使ってもらうことで、さらに良いブレンドや使い方が見つかる可能性が高いということなんだ。 こうした考えに至った背景には「凄麩」が極めてブレンド性に優れたエサであるという事実が存在する。つまり「凄麩」は性能的には凄いエサなのだが、決して我を張るような強い性格のエサではなく、むしろ他のエサの特性を引き出す力に優れているんだ。具体的には開く・粘る・重い・軽いといった個性的な性格のエサをブレンドすることで、そのエサの特徴を生かしつつも自らの性質の軸である膨らみの良さと芯残りをまったくブレさせることなく、確実に釣れるエサに仕上げることができるという訳だ。 今回の取材では時期的なこともあってセット釣りのバラケとして使ったが、本来は盛期の両ダンゴ釣りでその真価を発揮するはずだ。そのときこそ色々なブレンドを試してみて、使う人それぞれがベストと感じられる個性的なパターンを見つけ出して欲しいね。ちなみに昨年秋の実釣テストでは、両ダンゴのチョーチン釣りでは「天々」や「パウダーベイトヘラ」との相性の良さを感じたし、浅ダナでは単品で仕上げた「凄麩」に「BBフラッシュ」をパラパラと加えただけでバクバクの入れ食いになったこともある。それに加えてこれはまだテストはしていないが、盛期のペレ宙釣りなんかでも凄いことになりそうな予感がするな(笑)。」

石井の言葉からは確かにブレンド性能の高さがうかがえるが、それと同時にどのようにエサを扱ってもその性能を失わないという安心感が湧いてくる。さらに浅ダナやチョーチン、両ダンゴやセットのバラケといった汎用性も感じられる。つまり「凄麩」は取り扱い上の注意点はなく、釣り人の感じるまま、思うがままに使える究極の麩エサであることがダイレクトに伝わってくる。

総括

筆者は今回の取材で始めて新エサに触れた訳だが、ファーストインプレッションとしては麩材そのものに強烈なインパクトは正直感じられなかった。実際に石井が作ってくれたエサを手にしてみると、確かに基エサには丸めると指を押し返してくるような弾力が感じられ、ボソ感は強いが同時にまとまりやすさも感じられた。さらにかなり練り込んだといわれるものを触ってみると、確かに軟らかくなって粘りを感じるが決してベトベトしたものではなく、表面は意外なほどにサラッとした感触であることが分かる。

素材そのものはというと、粒子感や匂いは「バラケマッハ」に近いが色はやや薄めで、それだけに従来の麩エサの中にすんなり溶け込んでくるような親近感を覚えた。それだけにインパクトのある「凄麩」というネーミングに少なからずギャップを感じてしまうのだが、こうした印象は石井の次の言葉で間違いないものであることが裏付けられた。

「名前も性能も凄いんだけど、実際に手で触ってみると驚くほど普通で、特徴がないのが特徴といえるくらい見た目は何の変哲もないエサなんだよな。でもこれだけのエサは未だかつてお目にかかったことはないよ。「ボソタッチ=芯残りする」なんて今までのへらエサの常識にはあり得ないこと。単に芯を残すだけなら硬くするか強烈に粘らせれば良い訳だが、それでは釣れないよね。必要なのは膨らんで軟らかくなった芯なんだ。それが実際に得られるのが「凄麩」であって、練っても練らなくても、何を混ぜても最高のパフォーマンスをするはずだよ。例えるならば“羊の皮を被った狼”ってところかな。とにかく両ダンゴの季節が待ち遠しいヨ(笑)。」