稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第20回 上村恭生が実践するトーナメント試釣術|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第20回 上村恭生が実践するトーナメント試釣術

2011年秋にスタートした釣技最前線も早20回目を迎えた。記念すべき第1回の記事を覚えている方も居られるだろうか?テーマはトップトーナメンター萩野孝之によるメジャートーナメントを見据えた試釣のプロセスを、実際に試釣の場面に同行してその内容を紹介させていただいた。今回も既に秋に全国大会決勝を迎える各種トーナメントの予選が始まっているが、ひとことに試釣と言ってもそのプロセスや心構えは十人十色で、各自がオリジナリティー溢れる方法で大会に臨む準備を整えている。 全国規模の大会はそうした準備なくして勝つことはできないが、我こそはと虎視眈眈その頂点を狙っているトップアングラーは数知れず、そうした彼らを目標に日々精進している予備軍も少なくない。そこで今回は、そうした大会上位を目指すアングラー諸氏の手本となるべき名手に登場頂き、効果的な大会試釣のプロセスや心構えについて紹介してもらうことにする。その名手とは関西を代表するトップトーナメンターで、昨年度自身2度目となるG杯制覇を果たしたマルキユーインストラクターの上村恭生である。 彼の釣りは競技ばかりクローズアップされがちだが、管理釣り場を離れると自然の中に息づく貴重な一枚を追い求めるといった、コテコテの野釣り師の一面も併せ持つマルチアングラー。そんな彼の試釣には、自らを追い込んで精密機械のように釣りまくる競技のシーンだけでは決して見られない、力みのない自然体の顔が見え隠れする。では早速、上村流トーナメントプラクティスを紹介することにしよう。

試釣は情報収集の場であり、釣りを決めるものではない!

今回の取材フィールドは愛知県豊田市にある管理釣り場:ひだ池。来る5月18日(土)に開催されるマルキユーM-1Cup中部地区予選の会場にもなっている。今回はリアル試釣ということで、およそ3週間後に迫った大会に照準を合わせた釣りを上村に披露してもらうことにした。 取材当日はあいにくの空模様で、朝から水面を叩きつけるような雨が降り続いていたが、上村は予選で使用が予定されているエリアを確かめると、早速旧桟橋の中程に釣り座を構えた。 彼が選択した釣り方はカッツケウドンセット釣りだ。まずは試釣時の釣り方の選択方法について訊ねてみる。

「釣れる釣り方が一番優先されますが、その中でも自分が得意な釣り方があれば迷わずそれを選びます。ひだ池はひさしぶりですが、浅ダナで釣れているとのことなので、とりあえず一番釣れそうなカッツケウドンセットを試してみます。それ以外の釣りについては時間的にすべてを試す訳にはいきませんので、次に釣れそうで得意な釣りを試すくらいに止まることが多いですね。 また得意な釣りが良くないという場合でも、一応やってみてナゼ釣れないのかを確かめてみます。やはり情報は自分の目と耳で確認し、肌で感じることが大切ですからね。」

さて実際の釣りの模様は後ほど紹介するとして、いきなり核心に迫る質問になるが、試釣に臨む際の心構えとチェックポイントについて訊いてみた。


「私はあくまで試釣は情報収集が目的であり、釣りを決めるものではないと考えています。もちろん、釣り方自体は迷いなく決めたうえで大会に臨みますが、そのプロセスに関しては決めつけないという意味です。例えば試釣でいい感じになったバラケのタッチを覚えておいて、いきなりそうしたタッチのエサからはスタートしませんし、最終的に行き着いたタックルセッティングで始めることもありません。セット釣りであればバラケのタッチは普段の釣りと同じプロセスを辿って合わせて行きますし、ハリスなどもやや長めからスタートするようにしています。つまりキメキメではない余裕というか、若干の遊びを持たせておくのです。 またメンタル面では試釣も本番も同じような精神状態でいられるよう、日頃の釣りから気持ち的にはトーナメントを想定して始めることもあります。私も意外に?緊張する方ですので、こうしたことを心掛けることで、少しでもメンタル強化につながっていると思います。 本番で上手く釣れない人の多くは、試釣で得た結果を重視し過ぎというか、普段の釣りとかけ離れたプロセスを辿っているように思います。つまり試釣の段階であまりにも釣りを決めることに力を注ぎ、自己中心的とも言うべきあり得ないような理想のストーリーを描いているのです。皆さんご存知の通りへら鮒は生き物であり、日々釣況は変化します。当然試釣と本番では天候も混雑によるプレッシャーも違いますし、同じ釣り方が通用するハズがないのです。にも関わらず強引に試釣で決めたパターンを当てはめようとするので、本番では試釣とのギャップに苦しむことになってしまうのではないでしょうか。」

上村は試釣で得た情報はすべてインプットするが、それはメインではなくあくまで頭の隅に置いておくだけの引き出しのひとつに過ぎない。もちろんそうした引き出しは試釣だけの結果が納められている訳ではなく、過去すべての釣りの経験がいついかなる時でも取り出せるよう、整理整頓された状態で納められているのである。


「また試釣は本番さながら混雑する日曜日に行うのがベストという人がいますが、もし余裕があるのであれば、平日の食いが良いときのピークを確かめておくことも大切です。これは全体の流れとしては食い渋り状態になりがちな大会でも、時合いの波というか急に食いが良くなる時間帯があり、そのときに食ったらこれくらい釣れるというのを経験したおいた方が、いざというときに確実に釣り込むことが出来るからです。」

とも付け加えた。

使用タックル

●サオ
がまへら「一彗」7尺

●ミチイト
サンライン パワードへら道糸「奏」 0.8号

●ハリス
サンライン パワードへらハリス「奏」
上0.4号8cm/下0.4号30cm

●ハリ
上がまかつ「カイト」6号/下がまかつ「クワセマスター」2号

●ウキ
ディテール「オーバーラン」3号
【1.4mm径テーパーパイプトップ4.5cm/5.9mm径二枚合わせ羽根ボディ3.5cm/ 2.3mm径テーパー竹足3cm/オモリ負荷量≒0.35g/ エサ落ち目盛りはくわせをつけて全6目盛り中3目盛り出し】

●ウキゴム+ウキ止め
(サンライン浮き止め糸)

●オモリ
ウレタンチューブ装着板オモリ1点巻き

●ジョイント
極小マルカン

タックルセッティングのポイント

■サオ
大会本番であってもカッツケ釣りを選択した際は、規定最短尺で攻めることが多いという。今回は規定のないひだ池での試釣であったが、感触としては7尺で充分勝負できるという。試しに周囲との兼ね合いでサオの長さを替えることはないのかと意地悪な質問を投げかけてみたが、「そうした駆け引きは一切ない。自分の釣りを信じてやりきるだけ!」との即答が返ってきた。

■ミチイト
ナイロンライン最高峰の品質を誇るサンライン社製のミチイト「奏」は、手返しが速く負荷の大きなカッツケ釣りにおいては、その張りのある直進性と糸さばきの良さが、絡み等のトラブルを軽減しストレスを感じさせない。

■ハリス
ハリスも同じく縮れ難く耐衝撃性にも優れた「奏」を愛用。上ハリス8cmという長さには上村流のこだわりがあり、ほとんど変えることはない。その訳はこれ以上短いと速くナジミ過ぎ、長過ぎると止められたりエサ持ちが悪くなるという境界線で、8cmであればナジミ際のへら鮒の反応がウキに伝わる ため水中の状態が読みやすいという。下ハリスは30cmを基準にして調整は5cm単位で行う。この変更もそれほど頻繁に行う訳ではなく、やはり上村のウドンセット釣りはバラケによるアジャスティングが大きなウエイトを占めているようだ。

■ハリ
上バリに使用したがまかつ「カイト」はバラケを持たせる上村の釣りに欠かせないホールド性能に優れた必需品。また下バリのがまかつ「クワセマスター」はウドン系固形物には抜群のキープ力を持つくわせ専用バリである。

■ウキ
カッツケ釣り専用ウキのディテール「オーバーラン」は、タナ1m未満の浅ダナ専用ウキだが、アプローチはなじませ釣りに適した設計になっており、オモリがウキの下に来た瞬間クルッと立ち上がるレスポンスの良さは他に類を見ない。また激しいへら鮒の寄りにも耐える安定感は、複雑になりがちなカッツケ釣りをシンプル且つ容易にしてくれる。

持たせ系バラケの釣りを容易にした「セットガン」の威力と、エサ幅を広げた「凄麩」の潜在能力

さて、いよいよ試釣の始まりだ。スタート直後はどのくらいの時間でウキが動き始めるか、その日のへら鮒の活性を見るうえでは大切な時間であり、いわば仮想トーナメントのようなもの。もちろん上村にそうした緊張感は見られないが、早い打ち返しのなかにも慎重さが垣間見える。 スタート時点のタナはウキからオモリまでが約40cm。エサ落ち目盛りはくわせを付けた状態で3目盛り出しに設定されている。バラケのサイズは直径15mm弱の水滴形で、あらかじめ小分けされた基エサに少量の手水が加えられ、ややシットリ調整されたものを軽くまとめた程度のソフトタッチ。

このバラケでトップ先端ギリギリまで深ナジミさせて早めに切り返して行く。天候の悪化による食い渋りが心配されたがアタリ出しは意外に早く、10投もしないうちに明快な消し込みアタリでファーストヒットを決めた上村。型もカッツケにしては悪くない尺級の良型が強烈な引き込みを見せる。素早く玉網に取り込むと、テンポ良く次投を打ち返す。アタリはその後も間断なく続いたが上バリのバラケを食うことも多く、そのためかカラツンも目立つ。しかし上村はお構いなしにバラケを持たせた深ナジミの釣りを貫いて行く。

「この時期のカッツケウドンセット釣りでは、バラケを抑えた持たせ気味のアプローチが基本になりますが、こうした狙いを確実に実行するには、自分のイメージ通りのナジミが出るバラケが必要不可欠です。今回使用しているバラケの核は言うまでもなく「セットガン」ですが、このエサはまとまりが良いにも関わらずタナでの開き具合が極めて良いので、お陰でエサ付けの際のストレスがなくなりました。それに加えて先頃新発売となった「凄麩」をブレンドすることで、激しく揉まれてもアタリ負けしない強い芯を作ることができるのも良いですね。冬場は「特S」を使いますが、同じ 芯が強いエサですが「凄麩」の方がエサをいじれるので、今まで使いこなしていたエサ幅が更に広がりました。バラケエサに関してはコントロールしやすいブレンドは人によって違うと思います。大切なことは他人のブレンドを真似るだけではなく、もし上手く手になじまなければ品種を替えて作り直してみて、確実にコントロールできるブレンドを探り当てることです。」

持たせ系バラケをメインアプローチとする上村の釣りを変えたという「セットガン」と「凄麩」だが、持たせて、なおかつタナで開かせるという、相反する性能を満たすうえで、エサ付けの容易さと開きの良さを兼ね備えたふたつの新エサは無くてはならない存在となりつつあるようだ。もちろん、こうしたポテンシャルは浅ダナ(カッツケを含む)ウドンセット釣りのバラケに悩む多くのアングラーにとって大きな力になるに違いない。
そしてこの後、コンスタントにアタリが続くようになったところで上村に無理を言ってお願いをしたのが、一投毎のエサ付けに関する解説である。きっかけはアタリが出なかった投の次の一投で、必ずと言って良いほどウキの動きに変化が見られたためである。当然上村が何かをやっていると感じた筆者は、上村が頭で考えて行動に移していることを、あえて言葉に出してから実行してもらおうと思ったのである。その結果は実際に映像で確認していただければ一目瞭然だが、上村の一投は単なる一投ではなく、すべてに意味のある一投であることが分かる。つまり一投一投が、後の一枚のへら鮒を釣り上げるために積み上げられた布石であるという訳だ。

狭いレンジだからこそ「タナ」を意識せよ!

タナを自由に変えられるカッツケ釣りは、一見ウワズリを気にしなくていいように感じられるが、狭いレンジの中でこそタナを意識しないと釣りきれないと上村は言う。

「確かにカッツケ釣りはへら鮒が上がったなりにタナを浅くすることが可能ですが、単に浅くしても釣れないのが現代カッツケ釣りの難しさなのです。大切なのはアタリが安定するタナを探ることであり、競技という視点からは重量を稼ぐためにコンディションの良い大型が居着くタナを探し出すことも必要です。今回スタート時点では40cmほどのタナで始めましたが、実際にはこのタナで決まることはほとんどなく、試釣の段階で浅くしてみたり深くしてみたりしながら良い感じで釣れるタナを探る習慣を身につけるのです。」

ややウワズリ気味の方が良い感じで釣れるという上村は、イメージするウキの動きに少しでも近づくようタナを調整するが、水面に叩きつけるほどの強い雨が時合いを不安定なものし、これがベストというタナは容易に見つからなかった。しかし、これはこれで貴重な情報になるという。つまり、ここひだ池では雨の日はへら鮒のコンディションが上がらず、無理にタナを決めつけない方が良いということが情報として上村の頭にインプットされたのだ。

バラケとくわせの距離感をイメージする!

これも試釣の際に確認しておかなければならない必須事項だが、カッツケウドンセット釣りではへら鮒が寄るタナとバラケの広がる範囲、そしてくわせの位置という3者の位置関係、いわば距離感をイメージして、それに見合ったバラケのタッチ調整とハリスワークを試しておく必要があるという。言うまでもないが、これはベストを探すのが目的ではなく、このくらいで良い感じになるだろうという目安を見つけることが目的なのだ。 今回ある程度決まったと思われるバラケのタッチは、基エサにやや多めの手水を加えて強めの撹拌を加えたヤワネバタッチ。ここまでお膳立て出来たところでハリスの長さを試すという上村は、スタート時点で30cmであった下ハリスを一気に5cm詰めて25cmとした。結果はこれでも釣れたが、彼がイメージするほどの改善は見られなかったようで、ほどなくして元の30cmに戻すことになった。

「緊張する本番でも、冷静に理路整然と釣りを組み立てられるようになるためには、日頃の鍛錬が大切です。また難しいことをやろうとしても、試釣でできないことが本番で出来るハズもなく、できる限り、考えられる限りのことは試しておくことです。 また対応は出来るだけシンプルに、そして楽に出来ることが肝心です。私はバラケがある程度合ったところでハリスワークに取りかかるようにしています。なぜなら、ハリスは長さを変えてもダメだと感じたら、すぐに元に戻せるからです。これをバラケの調整が済んでいない段階でハリスに手を加えると、いずれが良くて釣れたのか、悪くて釣れなかったのかが分からなくなってしまうからです。しかも一旦バラケに手をつけると元に戻すことは不可能で、いじればいじるほどドツボにハマる危険性が増すので注意が必要です。」

その後、決して良い状態ではない時合いのなか、僅かなエサ付けの違いで食い渋るひだ池のへら鮒を確実にヒットさせる上村。カッツケだけにそうした微調整がハッキリと表れるところも興味深かったが、バラケエサの手直しで思いのほか大胆に手を加える手法にも驚かされた。まさに大胆にして繊細。これこそが上村流カッツケウドンセット釣りの神髄なのかもしれない。

総括

今回上村の釣りを見て再確認したことは、釣りをスタートする際はどんな釣りであれ常にニュートラルな状態から始め、その後の方向性は自ら決めるのではなく、ウキの動きから読み解いた時々刻々変化する水中のへら鮒からのシグナルによって決めているということだ。 とかくへら師は自分のペースにへら鮒を引きずり込もうとするが、それが返って逆効果になってしまうことも少なくない。では最後にトーナメントを目指す後進に上村からのアドバイスを頂いてこの項を締めることにしよう。

「繰り返しになりますが、試釣はあくまで大会本番に備えて想定される釣りの下準備に他なりません。ウキはハリはどんなものが必要なのか、エサはどういった傾向のものが良いのかなど考えられるすべての項目のチェックが本来の目的なのです。決してベストに釣りを決めることではありません。むしろ試釣で決まり過ぎると、それ自体足かせになる危険性があるので、試釣ではどんなにたくさん釣れてもあくまで参考として頭の隅に追いやっておくことが肝心なのです。 また真剣勝負の場であるトーナメントは、メンタル面で後手に回らないようにすることが大切です。そのためには自分で自信が持てる釣り方で臨むことと、エサやタックルといったハード面の準備と、釣り場の傾向やクセ、それに最新の釣況といったソフト面の確認作業を怠りなく行っておくことが肝心です。私にも経験がありますが、そうした準備が何かしら不足していたり、情報収集が不十分だったりすると精神的に不安定な状態で臨むことになり、やはり良い結果には結びつきません。もちろん稀には一か八かの賭けに出て上手くいくこともありますが、そうした幸運は長くは続きませんし、そうした釣りを続けていては常に上位をキープすることは不可能です。 本番では緊張するなという方がどだい無理な話で、緊張しない方法があったら私の方が教えてもらいたいくらいです(笑)。だからこそ入念な準備が必要になるし、またそれだけの準備をしたということ自体自信につながることも少なからずあります。 そうした平常心で臨むとふだんでは思いもつかなかったことに気づいたり、新たな発見があったりするもので、そうした経験もその後の釣りに大いに生かされるので、是非皆さんも積極的にトーナメントに参加して、独特の緊張感と競技の釣りの楽しさを味わってみてください。」