へら鮒天国TOP > 特集・記事一覧 > 稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第29回 ライト系浅ダナウドンセットの新機軸! 杉山 達也のシンクロナイズドフィッシング



食い渋り時に有効といわれる、抜きバラケのセット釣り。通称“ゼロナジミのセット釣り”といわれるこの釣り方がクローズアップされるようになって久しいが、実はこの釣法、釣果を出すには出せるが、そのアプローチは極めて難解であり、しかもこれでもかというほど多彩で高度なテクニックを要求されるため、一部のトップアングラーのみがその恩恵を享受しているのが実情である。このコーナーではそうした釣技を解説する役割も担っているが、当サイトの愛読者である初中級アングラーの多くは、何より簡単に釣れる釣法を待ち望んでいるのではないだろうか。そこで今回はマルキユーインストラクター杉山達也が、浅ダナウドンセット釣りに悩む多くのアングラーの声に応えるべく、単純明快な理論で構築したライト系ウドンセット釣りを余すことなく披露してくれた。  
   
「最近の抜きバラケのセット釣りはオタクっぽくありませんか?初めからゼロナジミに特化した特別なウキに全く持たないバラケを組み合わせ、毎投水面からどのくらいの位置で抜くといった釣り方は理解するのさえ難しく、あまりにマニアック過ぎると感じているのです。こうした釣り方は特殊な時合い下では必要なのかもしれませんが、一般的には多くのアングラーに受け入れられませんし、何よりへら鮒釣り本来の姿からかけ離れてしまうことが心配なのです。」
取材の冒頭我々の意図を汲んでか、こう切り出した杉山の言葉からは、たとえ釣れたとしても難し過ぎる釣り方やマニアック過ぎる釣り方への偏重は、へら鮒釣りが決して良い方向へとは向かわないという懸念が伝わってきた。まさにこの杉山の言葉通り、多くのアングラーが可能な限り簡単に、楽しく釣ることができる釣法が今求められているのではないだろうか。 釣り場の変化に伴い釣り方が変わるということは、過去のへら鮒釣りの歴史の中で繰り返されてきたことではあるが、特効薬というべき釣り方が登場するまでの端境期には、返って難しさを楽しむような釣法が登場することがしばしば見られる。しかし、やがてそうしたマニアックな釣り方は淘汰され、へら鮒釣り本来の姿に則した新たな釣技へと確立されてきたのである。 そして今回、トップアングラー杉山達也のロジカルなアプローチにより、多くのアングラーが実践可能であろう新機軸のライト系ウドンセット釣りが新たに構築されたので、府中へら鮒センターでの彼の実釣を交えて紹介させていただく機会を得たという訳だ。

今回紹介する釣り方に着目したきっかけについて、杉山は以下のように語った。
「多くの管理釣り場がそうであるように、狙ったタナ(規定1m)にへら鮒を寄せきれなくなっているのが最大の要因です。これがタナ規定のない釣り場であればカッツケ釣りで自在にタナを調整することが可能ですが、タナ規定のある釣り場では最も大きなハードルとなることは想像に難くありません。実際にエサを打ち込んでみると、まず開きの良いバラケでは的確にその粒子をタナに送り込むことが難しく、かといって小エサにしたりエサを締めたりすると全くと言って良いほどへら鮒が寄らなくなってしまうのです。そこで開くバラケという絶対的な軸はそのままに、如何にバラケをタナに入れてくわせエサとシンクロさせるかを考えた結果が、今回皆さんに紹介する誘導型の抜きバラケのセット釣りなのです。」
従来の抜きバラケのセット釣りは、タナよりも上層で抜くことにより、まるで海釣りでのコマセエサをまいたかのような状態の中にくわせエサを漂わせ、へら鮒に気づかれないようにくわせエサを飲み込ませてしまおうという、いわば誤飲系ともいえるアプローチが主流である。
これに対して杉山が披露してくれた抜きバラケのセット釣りは、オモリに引かれながら水中を落下するバラケが粒子を拡散させながら沈下して行く過程で、その大半を散らすことで、容易にタナを下げない(タナに溜まらない)上層のへら鮒を徐々にタナへと誘導し、くわせエサにバイトしてくる食い気のあるへら鮒の供給を常に確保するというものである。まずはこの部分を理解したうえで、実釣の様子を見て行こう。



   
■サオ
竿は操作性や釣り味といった要素以外に、使用するミチイトとの兼ね合いが重要である。今回杉山はいつになく細めのラインを選択している。その理由はハリスの倒れ込み重視のアプローチを補助するため。しかし如何に高性能のラインとはいえ、細くなればなるほどラインブレイクのリスクは高まる。それを軽減するために必要なのが、竿自体が持つ柔軟性である。今回は特に軟らかめの調子の竿を使うことで、使用するタックルバランスの整合性を図ったのである。
 
■ミチイト
今回の釣りを陰で支えるのがミチイトである。杉山が意図するところは、下ハリス(くわせエサ)の倒れ込みとアオリによる動きを確実にウキに伝達させるという点であり、それを実現させるためには0.5号という極細ラインは必要不可欠なアイテムなのだ。
 
■ハリス
上ハリスの6cmはほぼ固定。これ以上長くても短くても、意図的にバラケを開かせて狙ったタナにへら鮒を誘導することはできないという。下ハリスの細さは、先に述べた倒れ込み重視のアプローチへのこだわりであり、長さ30cmをスタート時の基準とし、状況に合わせて2cm単位で微調整を加えて行く。当日は最短26cmまで詰めたがこれで決まった訳ではなく、伸ばしたり詰めたりを常時繰り返していた。なお、調整の判断基準については後述する。
 
■ハリ
これについても明確な狙いが反映されている。上バリは肝心なところでバラケがハリに残らないよう、エサ切れの良い細軸タイプを使用。下バリは小さく比重の軽いくわせエサの特徴を最大限生かすため、小さくてもエサ持ちが良く吸い込みやすい専用バリをチョイスしている。

■ウキ  
今回杉山が使用したのは、現在最終テスト段階に入った新作ウキのプロトタイプ。最大の特徴はスローテーパーのPCムクトップで、ナジミ込みがスローになることでサワリの表現力がアップしている点だ。
これにより食いアタリへとつながる前触れのサワリが読みやすくなり、アタリを待つべきなのか、 それとも打ち返すべきなのかの判断がしやすくなっている。そして、何より今回のようなアプローチでは、パイプトップに比べて格段にアタリが出やすく、カラツンの軽減にも一役買っている。発売は今年の7月頃を予定しているとのことだが、同ウキは同じく上層から追わせる両ダンゴの釣りにも適しており、夏は両ダンゴ、冬はウドンセットとオールシーズン活躍できる設計となっている。
 
 
 
 
杉山流抜きバラケのセット釣りの生命線となるのが、くわせエサがナジミきるまでに抜けて、上層のへら鮒をタナへ誘導するバラケである。基本となるのがブレンドパターンであることは言うまでもないが、特に今回紹介するものはシンプルながら彼の理論と経験が凝縮されている。杉山のエサに関する知識と卓越した感覚は周知の通りだが、今回のバラケもそうした能力がはじき出した素材と比率で構成されたレシピであり、非常に完成度の高いブレンドといえよう。 まず「粒戦」はバラケを開かせるというよりも水中で砕かせるといった狙いで加えられている。集魚力は言うに及ばず、その粒子自体へら鮒を誘導する力に優れているので、彼のセット釣りには無くてはならない素材である。しかし決して主役ではなく、あくまで脇役として加え、そのポテンシャルを引き出すことが大切である。
「とろスイミー」は下に降り注がせるバラケには無くてはならない素材である。エサ付けの際のまとまりやすさにも一役買っているが、主に上層のへら鮒がはしゃぐときや寄りが増したとき。つまりバラケがタナに入り難くなった際により下層へ粒子を送り込んでくれるのである。 「セットガン」は現代セット釣りに無くてはならない素材で、特に軟らかいタッチのバラケにおいては、そのエサ付けのしやすさに定評がある。
「GTS」はその粒子の軽さから、水中における漂い感を担っている。また全体的に重めの素材で構成されているバラケの比重を緩和し、重くし過ぎず的確にくわせエサとシンクロさせる役割も見逃せない。
そして最後は「セット専用バラケ」だが、この素材は全体の粒子感を増して直下へのバラケを強化させる狙いがある。
杉山はそれぞれの素材の特徴。特に長所を最大限生かすブレンドを心掛けそれを実践しているが、今回のブレンドもまたどれかひとつ欠けても、その比率が変わっても彼の狙い、目的を達成することが困難なほど完成度の高いものだが、そんなバラケを生かすも殺すもエサ付けとタッチの調整であると断言する。
「基本的には仕上がったエサを指先で軽くまとめ、チモトだけをしっかり押さえただけのラフ気味のエサ付けとします。しっかりまとめ過ぎると横方向への広がりが不十分となり、誘導力が乏しくなると同時にくわせエサとシンクロし難くなってしまうので注意が必要です。そしてエサ付けが上手くできると、意識してバラケを抜こうとしなくても自然で理想的な抜け方になるのが特徴的なバラケなのです。
またタッチの調整ですが、元々水分が多めのエサですので、手を加え過ぎるのはNGです。基エサを最も開くエサとして位置づけていますので、へら鮒が寄ってエサ持ちが悪くなったと感じたら、極少量の手水と撹拌でまとまり感を増すだけでOK。ただし、極度のウワズリを感じたときは、吸水させた「とろスイミー」をひとつかみ混ぜ込むと下方向への粒子の落下を強調することができます。反対にウキがすんなりナジミ過ぎたときには手を加え過ぎたものと判断し、別に用意した吸水済みの「GTS」をひとつかみ加えると、エサ全体が軽くなるのと同時に粒子の漂い感が増します。いずれの調整も基エサの特徴を変化させることなく、加えた素材の特徴のみを生かすことができるので、終始安心して使いきることが可能です。」

 

近年抜きバラケのセット釣りにおけるくわせエサは、軽く小さなものの方が良い。こうした傾向は多くのアングラーが感じていることだろう。この点については杉山も同様の見解を示している。現在杉山が常用するのは前述の通り「さなぎ感嘆」であるが、特にこのエサにこだわる理由はバラケの粒子にシンクロしやすく、なおかつタナ周辺で煽られるくわせエサの動きがウキに伝わりやすいためである。また状況に応じたサイズ変更や硬さの調整もできるので、よりきめ細やかなアジャスティングが可能であるという。
「この釣りのポイントのひとつに、サワリを出しウキの動きを読みやすくするということがありますが、それを容易にするために使用するPCムクトップのウキとのマッチングを考えたときに「さなぎ感嘆」は現時点でベストのくわせエサといえるでしょう。 また以前はタピオカ系のウドンがメインでしたが、このときはへら鮒がくわせエサ自体を確実に認識して食って来たものと思われます。ところが現在はこのエサが完全に見切られたような状態となってしまったため、「さなぎ感嘆」や「力玉(さなぎ粉漬け)」に代表されるような軽く小さなくわせエサをバラケの粒子とシンクロさせ、そのなかに紛れ込ませて粒子に疑似化することで誤飲を誘うというアプローチでないと、極端に食いアタリが出難くなっているのが実情なのです。」
と杉山はくわせエサの重要性を力説する。
タックルの項でも触れたが、この釣りを成立させるためにはPCムクトップウキは必要不可欠なアイテムである。もっともそれ以前に、落下するバラケに追従できる適切なオモリ負荷量を有するものをチョイスすることが肝心であることは言うまでもないが、なぜPCムクトップウキが必要なのかと言うと、その理由について杉山は次のように解説した。
「パイプトップウキよりもへら鮒のサワリが表れやすく、また読みやすいことが最大のメリットだからです。特にポイントになるのがトップ付根からくわせエサの重さがかかる間のサワリと、くわせエサがナジミきった直後から表れるサワリです。前者は水中落下していくバラケを追ってくるへら鮒のサワリであり、ここでの動きがまったく無くすんなりナジんでしまうときはへら鮒の寄りが少ないか、さもなくば粒子の拡散が不十分でへら鮒が興味を示さず追って来ない状態と判断できます。後者は沈下するバラケを追ったへら鮒がタナまで誘導され、上層から被ってくるバラケの粒子とシンクロするくわせエサに近づいたときにのみ表れるサワリです。よってこの時点でサワリが無いときはアタリが出ることは少なく、仮にアタッたとしてもカラツンになる確率が高いのが特徴です。
ではこうしたサワリが無いときの対処方法ですが、前者の場合バラケの粒子の拡散範囲を広げ、なおかつ粒子の漂い感を増すためにエサ付けをラフにするか、それでも効果が薄い場合は「GTS」を適宜追い足します。後者の場合はへら鮒をタナまで誘導すべく、更にはくわせエサにバラケの粒子を被せてシンクロさせるため「とろスイミー」を追い足して下層への誘導力を増すか、くわせエサの存在を強くアピールするため、ハリスの長さを伸ばします。
こうした対処が正しく的確に行えるのは、まさにウキのポテンシャルのお陰です。パイプだからアタリが出ないとか、PCムクだからアタリが大きく出るとかいうのではなく、あくまでアタリへとつながる前触れの動きであるサワリがハッキリ表れることが重要であり、それを元に水中のへら鮒の状態(バラケとくわせエサのシンクロ状態)を読みきることが肝心なのです。」

 
 
 
  セット釣りにおける下ハリスのアジャスティングは、決して簡単ではないというのが多くのアングラーの悩みであろう。しかし、杉山のハリスワークは実に明快、かつ的確である。
「確かにハリスワークは一筋縄ではいかない難しさがあります。考え方の基本は、へら鮒に対してのバラケとくわせエサの距離感。つまりバラケの粒子の広がりに対するくわせエサの漂い感を意識することが肝心なのです。100%正しいとは限りませんが、私なりの判断基準としては、終始節操なくウキがフワフワするのはハリスが長過ぎると判断し、ナジミきった時点で動きが無いときは短過ぎると判断します。そしてくわせエサだけになった時点で半目盛り程度フワッとあおるような動きが出るときは、ハリスの長さが適切である証です。
また調整の際には少しずつ長さを合わせていくことが肝心です。一回の調整幅は2cmを基本とし、動きが改善されなければさらに調整を加えます。また詰めるだけとか伸ばすだけといった一方通行の調整は通用しません。迷ったときは一旦元に戻し、一から始めることが肝心です。」

 
   
 
 
  一般的に抜きバラケのセット釣りのアタリは、くわせエサだけになった後しばらく待ってからの「チクッ」という感じの小さなものが多いが、杉山の釣りを見ていると、アワセるアタリにはいくつかのパターンに明確に分かれていることが分かる。
まずはサワリながらナジミきった直後「ズバッ」と大きく決めるアタリ。このタイミングでは、バラケを持たせる釣りではバラケを食うことが多く、またカラツンになる確率も高い。ところが杉山がこのアタリにアワセると、そのほとんどが下バリにハリ掛かりしているのだ。
「これがこの釣り方の特徴で、狙い通り上層のへら鮒がバラケに誘導されてタナに入り、バラケとシンクロしたくわせエサを躊躇なく口にしている証拠なのです。」
と杉山は言うが、もちろん本命の食いアタリはこれではなく、くわせエサがナジミきった(下ハリスが張りきった)直後にフワッとあおりが表れ、早ければ数秒後、遅くても30秒以内に「チクッ」と決めるアタリが圧倒的に多いのだ。そのアタリは決して強くも大きくもない。しかし急ブレーキがかかるような鋭さがあり、釣れないアタリとは一線を画することが良く分かる。 「ナジミ際からアタリまでのプロセスに淀みがなく、最終的にこのタイミングでコンスタントにアタリが出ていれば、多少のカラツンは問題ありません。この小さめの食いアタリが出ている状態がベストで、寄りも食い気も充分あると判断できます。これに対して釣れたとしても、大きなアタリで大きなへら鮒が釣れるようだと、それは中小型のへら鮒の寄りが不足し、タナでのスペースが空き始めた証拠と判断します。この場合、改めて寄せを意識する必要がありますので、バラケの開きを良くするか、エサ打ちテンポをアップさせなければなりません。」






 
 
   
 
 
  難しいと言われる現代浅ダナウドンセット釣りをシンプルに、しかも明快に釣りきってみせた杉山のアプローチ。取材中再三口にしていたのがバラケのコントロールとくわせエサとのシンクロの重要性であった。
「かつてタナが作りやすかった頃にはバラケを持たせることが大前提でしたが、現在はバラケを抜かないとへら鮒を寄せることも食わせることもできなくなっています。しかし冒頭でも述べましたが、闇雲にバラケを抜くだけではこれもまた不十分。一方マニアックに攻めることは難しさを増すばかりで、決してスタンダードな釣りにはなり得ません。
今回紹介させて頂いたアプローチであれば、特に強く意識しなくてもベストのタイミングで自然とバラケが抜けてくわせエサとシンクロさせることができます。その結果、安定的で強い釣りが可能になるので、誰もが認めるスタンダードになり得るのです。」

小手先ではない、腰の座った杉山の抜きバラケのセット釣り。へら鮒釣りには、その難しさを楽しむ一面があるが、度を越した難しさは返ってアングラーの気持ちを萎えさせかねない。オタク系(マニアック)に進むのか、それともスタンダードを目指すのかは貴方次第だ。
 
   

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