稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第52回 中澤 岳の冬の浅ダナウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第52回 中澤 岳の冬の浅ダナウドンセット釣り

いつの時代でもへら鮒釣りには、流行というか明らかに釣れるアプローチが存在する。今回取り上げる冬の浅ダナウドンセット釣りでは、ここ数年タナに届く前にバラケを上バリから抜いてしまうアプローチが有効とされている。冬の食い渋りには極端にバラケ性を抑えた“石バラケ(おつりバラケ)”が良いと言われたかつての厳寒期のセット釣りを知るものとしては、まさかこうしたアプローチが流行る日が来るなどとは夢にも思わなかった。しかし今や抜きバラケの釣りなくして冬の釣りは語れず、さらにそれはオールシーズン食い渋り時のスタンダード釣法として無くてはならないものになっている。そこで今回はこの釣り方を得意としているマルキユーアドバイザー中澤 岳にアプローチのキモを紹介してもらおうと白羽の矢を立てたのだが、目の前で繰り広げられたその釣りは、独特の世界観を醸し出す実にシステマチックなアプローチであった!

トータルバランスでストレスなく抜いて“粒”を自然にくわせに被せる!

中澤ワールドと称される独特の世界観でへら鮒釣りに臨んでいる中澤は、ときに誰も真似のできないような独創的な釣りを編み出すことで知られているが、今回披露してくれた抜きバラケのセット釣りは、個性的でありながらもその組み立て方は至ってシンプルであり、セット釣りに悩む多くのアングラーが参考にすることができるアプローチであることが分かる。

「近年冬場における浅ダナのへら鮒は抜きバラケの釣りで相当攻められているので、単にバラケを抜いただけでは釣りきれなくなっています。抜き方の工夫はもちろんのこと、究極にライトなタックルセッティングで臨んでいるアングラーも少なくありません。しかしそうした方向に向かってしまうと、僅かなミスも許されないようなシビアなテクニックが要求されてしまい、ときとして批判を浴びかねないほどきわどい釣りになる恐れも否定できません。かつて私も勝つためにそうした釣りを目指したこともありますが(苦笑)、マルキユーアドバイザーとして、より簡単に釣れる方法を見いだし普及することも使命ですので、今回はここ数年来研究してきた抜きバラケの釣りを紹介したいと思います。」

中澤が披露してくれた釣りの効果のほどは、既に多くの実践を通して証明済みであり、取材フィールドとなった清遊湖で先頃行われた例会(※中澤自身が会長を務めるクラブスリーワン1月例会)において、浅ダナウドンセット釣りで21㎏という好釣果で優勝していることからも、極めて有効な釣技であることは間違いない。では抜きバラケが釣れる最大の理由は何なのであろうか?

「それは早めにバラケを抜くことで、無駄なウキの動きを出さなくて済むからに他なりません。バラケを上バリに残しておくとバラケにアタることも多く、肝心のくわせに対する反応の良し悪しを判断することが困難になってしまいます。そこでくわせがタナに入る前にバラケを抜いてしまえば、くわせのみに対するサワリが読みやすくなり、アタリも取りやすくなります。つまりバラケを持たせるアプローチよりもシンプルに組み立てられるので、結果的に釣りが簡単になるのです。」

言葉にすると簡単だが、実際に抜きバラケの釣りにチャレンジしても、うまく釣ることができずに悩んでいるアングラーも多いはずだ。この点についてのアドバイスは?

「ポイントはいくつかありますが、軸とすべきことはバラケのタッチやエサ付けだけに頼るのではなく、タックルを含めたトータルバランスでストレスなく抜き、バラケの粒子を自然にくわせに被せることが肝心で、これさえブレなければ驚くほど簡単に釣れるハズですよ!」

中澤のこの言葉に誘われて、後日場所を変えて筆者も試してみたのだが、確かに無理なくバラケが抜けることで、アタリも素直で釣りやすいことが実感できた。では早速中澤流の抜きバラケの浅ダナウドンセット釣りの核心に迫ってみることにしよう。

使用タックル

●サオ
シマノ「飛天弓 皆空」9尺

●ミチイト
オーナーザイト「フラッシュブルー」0.8号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=0.5号6cm、下=0.4号35〜43cm

●ハリ
オーナー「バラサ」 上=6号、下=3号

●ウキ
俊作「マルチアングラー」三番
【1.2-1.0mm径スローテーパーパイプトップ8.0cm/5.8mm径一本取り羽根ボディ4.5cm/ 1.0mm径カーボン足6.0cm/オモリ負荷量≒0.5g/エサ落ち目盛りは全7目盛り中3目盛り出し】

●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2.0号

●ウキ止め
オーナーばり「へらストッパー」

●オモリ
内径0.3mmウレタンチューブ装着板オモリ1点巻き

●ジョイント
オーナーばり「Wサルカン(ダルマ型)」24号

タックルセッティングのポイント

■サオ
実は取材時の中澤は11尺竿でスタートしたのだが、これは釣り場の実績から導き出された選択であり、少しでもコンディションの良い素直なへら鮒をターゲットとすることが狙いであった。ところが自身が想定していたウキの動き出しよりも遅かったことに加え、たった1回の初アタリがカラツンになったことが意にそぐわない(※強過ぎたとは本人の弁)として、1枚も釣ることなく9尺に変更してしまった。そして変更直後から理想とする早いタイミングの小さなアタリで釣れ始まると、納得の表情でいきなりの時合いをつかんでみせたのである。こうした瞬時の閃きというか、動物的な勘によるシフトチェンジはいかにも中澤らしいリアクションだといえるだろう。今回は平日の取材であり、空いていたこともあって9尺で決まったが、釣り場やポイントが変わるだけで、さらに長い13尺前後になることもあると中澤は言う。実際厳寒期においては土日祝祭日の混雑時、8尺、9尺といった短竿ではアタリの数が十分確保できないことが多く、近年は11尺前後の竿を使う機会が最も多いと言う。ただし、竿が長くなるに従い、抜いたバラケをくわせにシンクロさせる難易度が高まることを理解しておかなければなるまい。

■ミチイト
このアプローチでは食いアタリがとにかく早い。アタリのタイミングを見ていると7~8割はくわせがナジミきった直後に出ており、残りの2~3割もそれほど待つことなく出ている。これはアタらないと判断した際の見切りが早く、すぐに打ち返してしまう中澤の釣りの回転の速さも関係しているのだが、それだけに沈みの良いミチイトが必要不可欠になっている。ただし、ある程度オモリ負荷量のあるウキを使うことで極端に細いラインを使う必要がなく、従来のような細いラインで心配されたラインブレイクのリスクは軽減され、トラブルの少ない快適な釣りが確約されることになる。

■ハリス
上ハリスはバラケを抜くことに特化した短バリス(※6cmは固定)が基本となり、下ハリスはバラケの粒子がくわせにシンクロするタイミングにマッチさせるため、従来の抜きバラケのセッティングよりもやや長めであるのが特徴的である。太さも従来のセット釣りよりも太めであるが、これはハリスの張りを担保するものであり、これは弱く小さな食いアタリを確実にウキへと伝えるためである。なお、下ハリスの長さに関してはウキのサイズとの相関関係が重要であり、今回使用した俊作「マルチアングラー」三番ではスタート時の基準を35cmとし、11尺時に使用した五番(※ボディ5.5cm/オモリ負荷量≒0.7g)では43cmを基準とする。そのうえで反応が悪ければ伸ばし、無駄な動きが目立つときは詰めるのがセオリーである。

■ハリ
上バリは汎用性の高い「バラサ」6号で、抜き加減のコントロール性を高めているが、特徴的なのは下バリである。厳寒期の浅ダナウドンセット釣りでは、多くのアングラーが下バリにくわせ専用タイプの軽量バリを使っているが、中澤が常用するのは、くわせに「感嘆」を使っているにも関わらず、上バリと同じ「バラサ」の3号と明らかに大きい。この狙いはくわせが張る(ナジミきる)動きがウキに表れやすく、自身がアタリを取る(出す)べきタイミングを見誤らないためであり、一日やって数枚というような超激渋時でもなければ、何の問題もなく食わせることが可能だと断言する。

■ウキ
従来の抜きバラケの釣りで使用するものよりも、1~2サイズ大きめであることが特徴的だ。これはいかに抜きバラケといえども、タナを作ることが大切であるという中澤のコンセプトに基づくものであり、あまりにも小さなオモリ負荷量の少ないウキでは、意図するところよりも上層で抜けてしまうことが多く、バラケをコントロールすることが難しいと言う。また抜きバラケではムクトップを使うアングラーが多いなか、あえてパイプトップウキを使うのにも理由がある。それはウキからくわせまでのラインテンションを確保し、小さな食いアタリを的確にウキに伝えるためである。さらに中澤はタナ規定のない釣り場はもちろんのこと、1m既定のある釣り場であっても躊躇なくタナを変動させる。もちろん1m よりも深い規定に基づく範囲であるが、取材時もカッツケタナで始めるのかと思いきや意外にもウキ下1mから始め、アタリが少ないとみるやすぐさまタナを下げ、最大では1.5mまで深くした。そして徐々にへら鮒の活性が高まりタナも上がって来ると、数段階のステップを踏んでウキ下80cmほどのカッツケまで浅くしていた。こうした処置に対しパイプトップウキは汎用性があり、ストレスなく扱えると中澤は言う。

中澤岳流 抜きバラケの浅ダナウドンセット釣りにおけるポイント 其の一:抜きバラケだからこそ、タナを作るイメージを大切にする

バラケを上層で抜いて、果たしてタナができるのだろうかと疑問に思うアングラーも居るかも知れないが、中澤流の抜き方が確実に実践できれば無駄に寄るへら鮒が抑制され、素直で食い気のあるへら鮒がタナに滞留し始め、コンスタントにアタリが続くようになる。そのコツは概ね次の通りだ。

●手順1:バラケのタッチ(※主に硬さ)で大まかに抜ける位置を分ける
前述の基本的な作り方で仕上げた基エサのタッチがタナのほぼ中間(※水面下50~60cm)で抜けるバラケのタッチであり、これよりも軟らかく調整すれば上層で抜け、硬くすれば下層で抜けるようになる。このときバラケの付け方を一定とし、バラケ自体の硬軟(※主にかき混ぜる回数と加える「セットアップ」の分量で調整)で抜ける位置をコントロールするようにすると、バラつきが少なく安定するようになる。その際、概ね3段階の硬さの使い分けができれば第一段階は及第である。

●手順2:1段階の硬さ毎に、手もみの回数でさらに数段階に分ける
概ね3段階に分けた硬さ毎に、それぞれ手もみの回数を変えたエサ付けをするのがポイント。基本は手もみをせずに軽くつまんでまとめただけのエサ付けで、これが最も早く抜けることになる。これよりも抜けを遅くするには手もみの回数を増やす訳だが、慣れないうちは4~5回に止め、これを1段階としてさらに4~5回多く手もみを加えたものを入れれば、1段階の硬さで3通りの抜き加減の調整が可能になる。その際、くれぐれも手もみを加え過ぎて1段階上の持つタッチ(※この場合は硬さではなくネバリによる持ち加減の強化ということになるが)の領域に入らないことが肝心だ。つまり3段階の硬さ(ネバリ)×3段階程度の手もみ加減の調整で、都合9段階の抜き加減のコントロールが可能になるという訳だ。もちろんこれは理論値であり、へら鮒の寄り具合や活性の度合い等の変化によって理論通りにならないことも少なくないが、こうした意識を常に持つことが大切であり、ひいてはタナを作るという結果に結びつくことになるのである。

●手順3:5~6粒の違い(※僅かなエサ付けサイズの違い)がウキの動きを変える
硬さに手もみを加えて数段階のバラケの使い分けを行いながら、スポット的にエサ付けサイズを変えることで、効果的にタナに誘導することができるという。中澤はこのことを「5~6粒くらい増やす」と表現していたが、その実態はほんの僅かエサ付けサイズを大きくするだけの調整である。このとき明らかに大きくするのはNGで、傍から見たのでは分からないレベルの、エサ付けしている本人だけしか分 からない程度の微妙な差異が適当である。実際に中澤が宣言して行った打ち分けでも明らかな効果が見られ、サワリだけで容易にアタってこなかった状況下で、その原因を僅かなウワズリと見抜き、一投だけ粒の数を増やして下を向かせる(※追わせる)と言って打ち込んだ直後、理想的なアタリで食ってきたことが何度もあったことは驚きであった。なお、タナを作るうえでウキが小さ過ぎるとイメージよりも上層で抜けてしまい、タナボケを起こすリスクが高まるので注意が必要とのこと。

中澤岳流 抜きバラケの浅ダナウドンセット釣りにおけるポイント 其の二:“○○過ぎない”セッティング

何事においても“○○過ぎる”というのは良くない。“過ぎたるは猶及ばざるが如し”の諺にもあるように、ものごとには程々が大事であり、へら鮒釣りもしかり。中澤流の抜きバラケのセット釣りでは、以下のような“○○過ぎない”配慮が随所に散りばめられていた。

1.短過ぎない竿
カッツケ釣りを含めた浅ダナの釣りでは、総じて短めの竿を使うことが多い。一般的には取り回しの良さやエサ打ちの回転の速さを第一に考え、釣り場規定最短尺の竿を選択するのがセオリーとされている。ところが中澤の発想はやや異なり、ただでさえアタリが少ない厳寒期においては、何よりも素直なアタリを出す食い気のあるへら鮒が居るエリアにエサが届く長さの竿を選ぶことが大切だと言い、その条件を満たす中で最も短い竿を選ぶことが肝心なのだと明言する。事実、中澤自身近年実績を出しているのは11尺であり、取材時も11尺でスタートしたことは既に述べたが、さらに驚くべきことは調子の異なる3本の11尺竿を常時ロッドケースに持ち歩いている点であり、こうしたところにも彼流の強いこだわりが感じられる。

2.小さ過ぎないウキ
タックルセッティングのポイントのところでも述べたが、一部で流行している小さなウキではバラケの抜けるタイミングが早過ぎてしまい、上手くタナをコントロールすることができないという。これは小さなウキがダメだというのではなく、バラケのブレンドからタックルセッティングまでトータルバランスを整えることで、安定した時合いを構築する強い浅ダナウドンセット釣りが可能であることを示したものである。またこれにより長めの竿によるエサ打ちの精度が高まると共に、多少の流れにも耐えられる強い釣りが可能になるのである。

3.小さ過ぎないハリ
これについても既に述べたが、現代浅ダナウドンセット釣りでは競って小さなハリを使用する傾向がみられるが、これには小ウキを軸としたタックルセッティングに加え、極端に小さく軽いくわせエサの流行が背景にある。中澤自身も「感嘆」をメインに小さく軽いくわせを使っているが、後述する「短過ぎないハリス」と前述の「小さ過ぎないウキ」との組み合わせにより、明らかに大きめともいえる「バラサ3号」で丁度良いバランスのタックルセッティングが構築されているのである。

4.短過ぎないハリス
浅ダナウドンセット釣りが得意なアングラーは、できる限りカラツンを減らそうとしてハリスを短く詰める傾向があるが、厳寒期の釣りにおいてはかなりのリスクが伴うと中澤は言う。どちらかといえばアタリを出すことの方が難しい時期の釣りゆえに、一旦アタリが出始めたら大きくタックルをいじらない方が失敗は少なく、むしろカラツンは食い気のないへら鮒の悪戯くらいに捉え、放置するくらいの勇気が必要なのだとも言う。

5.大き過ぎないバラケ
中澤流のアプローチでは、何よりバラケの打ち過ぎは禁物だ。理由はウキに無駄な動きを出さないためであるが、ただでさえウキの動きが少ない(出ない)厳寒期においては、大抵のアングラーがウキを動かそうとしてへら鮒を数多く寄せようとしている。このこと自体は決して間違いではないが、同時にウキの動きが複雑になり、へら鮒の動きが読み難くなる恐れが増すことを理解しておかなければなるまい。実際に中澤のウキの動きを見てみると、サワリはもちろんのことアタリ自体も非常 に小さいことが分かる。しかもそれが毎投のように続き、釣れ始まると連続するのが特徴的だった。バラケは終始小さめ(直径1cm程度)だが、エサ打ちのテンポは驚くほど早い。これによりバラケの打ち込み不足を補っていることは想像に難くないが、見方によっては無駄なバラケが無いと言った方がむしろ正しいかも知れない。それほど一投でへら鮒をコントロールし、一撃必殺といった感じで見事くわせに誘導してみせたのだ。

6.待ち過ぎないサワリ(食いアタリ)
サワリ(気配)がウキに表れていると、ついアタリが出るのを待ってしまうが、中澤の釣りは早いエサ打ちテンポも相俟って、くわせをぶら下げた状態でアタリを待つことはほとんどない。もちろん狙いはヒットポイントにある。中澤が意図する位置でバラケが抜けると、丁度いいタイミングでバラケの粒子がナジミきる瞬間のくわせに被ってくる。このためウキの動きを見ていると、くわせを含めた下バリの重さがトップに係り始めた瞬間から、ナジミきった直後のアオリが続いている間に出るアタリが圧倒的に多い。このようにヒットポイントを狭めることでリズムを維持し、アタリの持続性を高めている。

中澤岳流 抜きバラケの浅ダナウドンセット釣りにおけるポイント 其の三:竿の長さとタナのアジャスティング

近年における浅ダナウドンセット釣りでは、やや長めのサオに分があると考えている中澤だが、何より重要視しているのは素直なアタリを出すへら鮒が居るレンジを攻められる長さの竿を選ぶことである。それに加えて重要なのがタナのアジャスティングだともつけ加えた。ひとことに浅ダナウドンセット釣りと言っても、タナ規定のある釣り場とない釣り場では、そのアプローチに違いがあるという。簡単に言うとタナ規定がある釣り場では上限があるため、ウワズリを抑制しながら抜かなければならない難しさが加わり、これに対して規定のない釣り場では、ウワズったらそれなりにタナを上げることでストレスなく釣ることができるという訳だ。

「抜きバラケのセット釣りというとバラケを抜くことばかりに意識が向きがちですが、どんなに頑張ってもバラケだけではコントロールできない領域はあるものです。そこをカバーしてくれるのが竿の長さとタナのアジャスティングで、特にタナはアタリを出すために重要な要素となります。今回はタナ規定のない清遊湖の奥マスでの実釣でしたが、現時点でのタナはやや深めの方が良く、平日ということもありカッツケ釣りという選択肢もありましたが、とりあえず実績のある約1m強のタナから始めました。ところが思ったよりもウキの動き出しが遅く、1.2mにタナを変更した途端、いきなりアタリが出て釣れ始めました。このことからも分かるように、厳寒期の浅ダナではへら鮒が狙ったタナまで上がってこないことがあり、そのようなときには自ら歩み寄り、タナを合わせた方が無理なく釣れることが多いのです。これをタナにこだわるあまり、無理にたくさんのバラケを打ち込んで寄せようとすると、たとえ寄ったとしてもくわせへと誘導できず、結果的に目指す組み立てができなくなってしまうのです。」

この日の中澤は、実にこまめにタナを変えていた。まずは1m強のタナから始まり、アタリが出難いと見るや否や1.2mへと変更。その後もアタリの出方を見ながら1.3m→1.4m→1.5m→1.3m→1.1m→0.9mと最終的には浅めのタナで決めていたが、その間も流れが強まったときに一時的に深くしたり、まったく気配がなくなったときに30cm以上タナを大きく変動させ、その直後にアタリを出してヒットさせるなど、バラケの抜き方以外のアジャスティングにより、大きな穴を開けることなくコンスタントにヒットさせ続けた。

中澤岳流 抜きバラケの浅ダナウドンセット釣りにおけるポイント 其の四:ヒットポイントはハリスの倒れ込み時のワンチャンス!

さて肝心の食いアタリだが、まずそのタイミングの早さと小ささに驚かされた。この時期の浅ダナウドンセット釣りの概念では、ハリスが張らない状態の食いアタリは確かに小さく「ムッ」と押さえるような動きで食うことがあるので積極的にアワせることはあるが、これをメインとして狙うことはなく、できればハリスを張った状態で「カチッ」と強く鋭いアタリを出すことを目指すアングラーが多い。ところが中澤のアプローチはこれとは真逆の考えに基づき成り立っており、弱く小さいアタリほど良いアタリ(※ヒット率の高い食いアタリ)であり、むしろ強いアタリは悪いアタリと敬遠し、ウワズリの前兆現象として警戒するのである。

「基本的に活性が低い時期の釣りなので、へら鮒がエサを吸い込む力は弱いものと考えるべきでしょう。私が狙っているのはハリスが倒れ込んで行く瞬間、完全にハリスが張りきる前に食わせることを目指しています。このため必然的に「チッ」と小さく押えるような食いアタリが多くなります。しかもくわせの動きが止まったらその投は終わりと思っていますので、余程良いサワリが見られなければ次投に期待して速やかに打ち返すようにしています。つまりヒットポイントはワンチャンスなのです。もしアタるタイミングが一定せずにバラバラであったり、突発的に強いアタリが出るようであれば、それは寄り過ぎやウワズリによる糸ズレの動きと判断しています。こうした不安定な動きや強いアタリを出さないようにするためには、大きなバラケでたくさん寄せ過ぎないことが肝心です。加えて絶対に上バリにバラケを残さないこと。ある程度の距離を置いて適量のバラケを早めに抜くことで、くわせの位置には適度な間が空き、食い気のあるへら鮒が傍に居れば、容易にくわせに誘導することができるのです。」

取材中、中澤はウキを動かし過ぎないことが肝心だと繰り返し言っていた。確かに中澤のウキの動きには大きな上下動は一切見られず、むしろ静か過ぎるくらいすんなりナジんでいくが、くわせがナジミきる最後の最後で極めて小さなサワリが表れ、アオリが出るや否や1目盛りほどの小さなアタリで確実にヒットさせてみせるのだ。それはまるで、行儀よく一列に並んだへら鮒が、エサが落ちてくるのを待っているかのようであり、機械的に整然と同じ動きで釣れ続き、崩れる隙がまったく見られない。



「ラフな打ち込みや不用意な一投は確実に時合いを崩壊させます。特に抜きバラケの釣りでは正確なエサの打ち込みは必須テクニックであり、抜いたバラケの粒子を確実にくわせにシンクロさせるためには、何をおいてもウキの立つ位置に落とし込まなければなりません。当然流れがあれば強弱や方向を加味して打ち込みポイントを調整しなければなりませんし、バラケの粒子の広がりも考慮しなければなりません。どの程度シンクロしているのかはあくまでイメージに頼るほかありませんが、合っていれば必ず小さな食いアタリが続くようになるのです。」

総括

今回披露してくれた抜きバラケの浅ダナウドンセット釣りは、意外と言っては失礼かもしれないが、他人が思いもつかないような奇想天外なアプローチが得意?な中澤らしからぬ、シンプルかつ明快な攻め方であり、加えて多くの悩めるアングラーが救われる可能性を秘めた、いわば模範的なアプローチであった。とにかく冬場の釣りは、混雑するとアタリを出すことすら容易ではなく、とくに同じ釣り方で並んでしまうと、ちょっとした釣り方の良し悪しで大きく釣果に差が開いてしまうという厳しい現実が待っ ている。しかし中澤流の抜きバラケのアプローチであれば、無駄なく的確にバラケとくわせをシンクロさせ、安定的なヒットパターンを維持することができるだろう。へら鮒釣りは大量のバラケを使って単に寄せる数を競うものではない。ウキの動きが少ないとつい寄せ負けしないかと不安になってしまうかも知れないが、先に紹介したポイントさえ実践できれば、必ずや厳寒期の抜きバラケのセット釣りが好きになるに違いない。この釣りの旬も残りわずかとなったが、ラストチャンスに是非チャレンジしてみていただきたい。