へら鮒天国TOP > 特集・記事一覧 > 稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第53回 野釣りの必携エサ「いもグルテン」で大型野ベらを狙い撃ち!萩野孝之を虜にするスリリングな野べら釣り


バシャバシャッと、黎明のなかに響く激しい水飛沫の音。傍らのアシやマコモがゴソゴソと揺れ動くたびに胸の鼓動が高鳴り、視線は釘付けとなる。早春の野釣り場ではよく見かける風景だが、記者が目にしたのは夢中になって竿を振るひとりのアングラー。その人の名は、野釣りとは対極にあるトーナメントの鬼、マルキユーインストラクター萩野孝之だ。昨年度見事マルキユーM-1CUPを制覇したトップトーナメンターである萩野は、知る人ぞ知る野釣りフリーク。今回はこの時期ならではの良型の野べらを求め、関東の野釣り場を東奔西走する彼を追って野釣りの醍醐味をお届けしようという趣向だ。最先端のへら鮒釣りテクニックを紹介してきた「釣技最前線」においてコテコテの野釣りを取り上げるのは、おそらく今回が初めてであろう。野釣りはタイミングとも運ともいわれるが、トーナメントシーンでは見られないテクニックを駆使し、全力で野べらに挑む萩野の真摯な姿勢が、果たして巨べらを引きずり出せるだろうか、乞うご期待!  
   
へらウキ作者であり、大手釣具メーカーのインストラクターやフィールドテスターを務める萩野は正真正銘のプロフィッシャーマンだ。特にメーカー主催のメジャートーナメントは彼自身の存在を知らしめると共に、自らが広告塔を務める商品をアピールできる絶好の場となるが、その一方でプレッシャーは計り知れないくらい大きなものとなって彼にのしかかり、のんびりとへら鮒釣りを楽しむなどという余裕はないはずだ。そんな萩野の心を癒し、戦場と化したトーナメントや仕事の釣りに戻る気持ちをリセットしているのが、毎年この時期から始まる野釣り行脚である。実は今回の取材では、初日の朝に高滝湖を訪れ、ハタキの見られたポイントでサオを出すも徐々に産卵行動は終息。結局ウキは動かずに終わってしまい、好転する気配も見られなかったことから止むを得ず亀山湖に転戦。こうした状況判断の正確さや思い切りの良さは、何年にも渡り積み重ねられた経験が成せる技であろうが、そうしたことを一切億劫がらずに行動に移すことができる点は、根っからのへらフィッシャーマンであることの証であろう。
「子供の頃から親しんでいる野釣りですので、自然と足が向いてしまうDNAが刷り込まれているのかも知れませんね。とにかく各地の野釣り場から巣離れが始まったとか、ハタキが始まったなどという声が聞こえてくると、居ても立っても居られなくなるのです(笑)。」
萩野はまた、野釣りには管理釣り場の釣りにはない魅力や難しさがあるという。どちらかといえばパターン化しやすい管理釣り場に対し、野釣りにはセオリーやテクニックではいかんともし難い時合いというか、状況に見舞われることが少なくない。いつへら鮒は回遊してくるのか、いつ食い気のスイッチが入ってアタリが出るか分からないといった流れが読み難いため、始めから終わりまで集中力と緊張感を解くことができず、もちろん巨べらを狙ったからといって必ずしも釣れる訳ではないのだ。
「野釣りには運の良し悪しも確かにあるようで、それだけに真面目に真摯に向かい合わなければいけない釣りなのです。でも、そんな釣りだからこそ管理釣り場の釣りでは味わえない感動や発見があり、私にとって野釣りは心の洗濯という意味も含まれる大切な時間なのです。」
今回は2日間の取材であったが、早朝から日没まで、それこそ放っておいたらウキが見えなくなるまでアタリを追い続けた萩野。トーナメントシーンでは決して見られない、まさに“へらキチ”萩野孝之の癒しの釣りに迫ってみることにしよう。


   
■サオ
野べら釣りには様々なシチュエーションがあるため、状況に適した性能を持つ竿を選ぶことはもちろんのこと、魚道やストラクチャー(※主に藻や葦などの密集した水生植物)からの距離に応じた長さの竿を選択することが重要であるという。今回は巨べらで知られた亀山湖の乗っ込みべらがターゲット。しかし必ずしも「乗っ込み=短竿」という訳ではなく、朝の釣り場の雰囲気を肌で感じ、足元近くのストラクチャーに接岸している気配がなかったことから、沖にあるアシ際の魚道を狙うべく、ピタリとポイントにエサが送り込める強めの19尺を継いだ。
 
■ミチイト
野べら釣りにおいては、必ずしも巨べら狙いでなくとも太仕掛けを基本とする。これはハリ掛かりしたへら鮒を瞬時にストラクチャーから引き離すためのやや強引なロッドワークに対する保険であると共に、コイやレンギョ等の大型の外道がハリ掛かりした際、ラインブレイクを防止するための対策でもある。今回のターゲットは巨べらオンリーではなく、また短竿での極めて強引なパワーゲームでもないため1.5号とやや細仕掛けセッティングになっているが、ターゲットが明らかに巨べらに絞り込まれる場合は2.0号〜3.0号と太くするという。
 
■ハリス
ミチイトに合せてこちらも野べら仕様が基本となるが、重要なのはハリスの長さだ。今回は水深60cmほどの浅場を底釣りで攻めた訳だが、このときのハリスの長さは、短い方で水深の半分を占めることになる30cmと長めである。これはウキのサイズとの兼ね合いによるもので、大きめのウキでエサを含めたタックル全体を安定させ、巨べらのアオリに負けないようにするためなのだが、これだけではナチュラルなエサの着底状態になり難いため、やや長めのハリスが緩衝役となり違和感を軽減させているのだ。なおこのときのタナ設定は大ベタ状態(※タナ取りゴムを使った底立てを行っていないので正確なタナは不明)と萩野は言うが、振り切りでエサを打ち込んで1目盛りのナジミ幅が出るか否かという状態から、10cm程度はズラしていたようだ。なお、萩野の基本セッティングは上30cm/下40cmというが、アタリが少ないという理由から終盤上25cm/下45cmに変更していた。
 
■ハリ
今回は汎用性があり大型べらにも対応できるものとして、比較的軸が太く自重の重い『プロスト』を選択。いわゆる巨べら専用バリよりも軽量であることから、食い気に乏しい待機べらや移動途中の回遊べらに対しても、警戒心を抱かせることなく吸い込みやすい状態を整えられるという。今回は基準となる10号でスタートし、アタリが出難かった時点で8号にサイズダウンしていた。

■ウキ  
浅場の底釣りで乗っ込みべらを狙う場合、一般的には水深に見合った短めのボディサイズのものを選択する。だが、萩野のイメージとしては通常のウキでは浮力が足りないため、大型べらが寄った際のアオリに耐えられず、確実な食いアタリにつながり難いと考えている。そうなるとボディサイズの長いものを選択する必要に迫られるが、これでは水深が浅いとウキの全長が長過ぎてしまい釣りにならない。 そこで長さを抑えて浮力を増すために、今回は羽根4枚合せという特殊なボディをもつ野釣り専用のスペシャルウキを持ち込んだ。いわば非売品の萩野専用ウキということになるが、そのスペックや設計理論は、乗っ込み期の野釣りに適したウキを選択する際の参考になるであろう。ちなみに今回使用したウキの浮力(※オモリ負荷量)は、驚くなかれ24〜27尺一杯の深いタナで使用するのに適したレベルである。
 
 
 
 
野釣りはどこも同じではない。釣り場毎にそれぞれ特徴や傾向があり、それらを熟知したうえでシーズンに入れば直近の釣況を人づてに訪ねまわり、釣行のタイミングを今か今かと待ちわびるのも野釣りの醍醐味のひとつであろう。今回もまた、そうした情報収集により選定したのは高滝湖であった。実際に到着してみると一部でハタキも見られ、ここぞと思い選んだポイントで竿を出すも、時間が経つほどにハタキは終息に向かい、状況は悪化の一途を辿った。野釣りではこうした場面に遭遇することがよくある。ここで潔く移動するか、それともそのまま粘ってみるかの選択に迫られる訳だが、萩野はためらうことなく前者を選択。同湖では他に好転しそうな場所がなかったことから、車で数十分の移動をいとわずに亀山湖に向かったのだが、すると春先に大型が釣れることで有名な長崎キャンプ場下で多数のモジリと小規模ながらハタキを確認。これならイケるかもしれないと竿を出したところ、思ったよりもウキが良く動き、マブナや半べらの猛攻のなかから見事42cmの良型のへら鮒を釣り上げて見せた。本来であれば乗っ込み期の本命ポイントであるヤッカラ群のなかの“穴”を攻めたいところだが、あいにく先釣者が多く入ることができなかったため、そうした“穴”を行き来するへら鮒が必ず通るであろう、開けたところにあるアシ際にウキを立たせた萩野。この日のウキの動きから期待をして翌日も同所に入り、前日とほぼ同じ攻め方でスタートしたが、へら鮒が動き出す時間になってもモジリがほとんど見られない。よく見ると夜間に若干水位が下がったらしく、これにより浅場のへら鮒が移動してしまったかもしれないという一抹の不安を覚えたが、エサ打ち開始間もなくウキの傍のアシが動き出したので、何とかなるだろうと思い腰を据えて攻めることにしたのだ。 さらに萩野はこうした大まかなポイント選定に加え、回遊してきたへら鮒が足を留め、確実にエサを口にできるピンポイントの場所を見つけることを怠らない。時折エサ打ちポイントを前後左右にズラしながらアタリの出やすい場所を探るのだが、当然ながらタナはアバウトだ。しかし元来釣り堀や管理釣り場のような1cmのタナのズレが釣果を左右するような世界ではなく、むしろ良い意味での“だいたい”という感覚がものを言う釣りなので、積極的にエサ打ちポイントを変えることで、ワンチャンスをものにすることも少なくないのだ。その結果ある程度良いポイントが分かったところで集中的に攻めた訳だが、時々わざと大きくズラすことでアタリが出たケースもあったので、やはり一ヶ所に寄せて釣るというイメージではなく、へら鮒の口があるところにエサを送り込んでやる方がヒットチャンスは広がるようだ。

野釣りのすべてがそうではないが、今回のようなあわよくば尺半オーバーを釣ってしまおうという釣りは、明らかに管理釣り場の釣りとは一線を画すものであることが良く分かる。なかでも大きな違いはエサ使いとタックルセッティングだ。特徴的なところをピックアップすると、エサ使いにおいては徹底的に待つことができるエサに仕上げることが何よりも重要であること。今回の萩野のエサ使いのキモはズバリ「いもグルテン」である。入っていると何となく釣れるような気がする“おまじない”のようなエサだと萩野は言うが、芯持ちが 良くじっくり待てるエサに仕上げるためには、ホックリした仕上がりになるタイプのグルテンよりも、密度が濃くネットリしたタッチの方が良いことを彼はよく知っている。また大型のへら鮒が「いもグルテン」を好むことは多くの野釣りアングラーの定説になっている。近年関東近県の管理釣り場ではあまり見かけなくなったが、野釣りを中心に全国的に見れば、未だに「いもグルテン」に勝るエサはないという熱狂的なファンは決して少なくなく、超ロングセラーとして君臨するのも頷けよう。萩野はこう言う。
「エサ作りのポイントは大きく分けてふたつあります。ひとつは標準よりも水量を減らして硬めに仕上げること。そしてもうひとつは解さずに塊から千切りとって使うことです。これによりエサの内部に含まれるエアーが少なくなり、密度の濃い芯持ちの良いエサに仕上がります。知っての通り大型の野べらは数多く寄って来てエサを捕食するのではなく、ハタくまでは単体もしくは極少数の群れで回遊します。このため集魚という目的には重きを置かず、運良く回遊してきたへら鮒がエサに食いつくまで待てることの方が重要なのです。」
一方タックルの面では、明らかに太仕掛けが必要になる。これは巨べら狙いの釣りに限った話ではなく、野釣りではコイやレンギョ等の大型の外道がハリ掛かりする可能性があるため、ラインブレイクを防ぐためには必要不可欠な対策なのである。詳細はタックルの項で述べているが、特筆すべきは並びで釣りをしているアングラーすべてが短竿であるのに対し、萩野は躊躇なく19尺という長竿を継ぎ、計った ように対岸の葦際の魚道にエサを送り込んでいることである。これは萩野の周囲には手前に気の利いたヤッカラ群がなく、短竿で攻められないという事情もあったが、一般的に「乗っ込み=短竿」という先入観があると長竿の用意を怠りがちだが、常にあらゆる状況を想定して野釣りに臨む萩野の周到さが長竿の用意を促し、貴重な一枚のへら鮒をヒットさせることができた要因であることは間違いない。
 
 
萩野の野釣りを目の当たりにして、こんなにも長時間ジッとウキの動きを見続けるものかと正直驚いた。エサを打ち込んでから僅かに気配を感じようものなら、5分6分7分と息が詰まるような無言の攻防が延々と続くのだ。一般的な管理釣り場の釣りでは、宙釣りであれば1〜2分、底釣りであっても3〜4分で打ち返しているので、まったく別世界の釣りのようで興味深かった。
「大型のへら鮒ほど傍に近づいて来てから、エサを口に吸い込むまでに時間が掛かる傾向がみられます。実際に早いアタリや前触れなく出る突発的なアタリはマブナや半べらである可能性が高いことからも、大型のへら鮒を釣り上げるためにはじっくりとアタリを待つことが必要なのです。典型的なパターンとしては、まずウキに大きなアオリやフワ〜フワ〜とした長周期のサワリが表れ、その後小さな上下動を繰り返す途中で2〜3目盛り大きくズンと入ったり、小刻みにズブズブズブッと引きずり込まれたりします。およそへら鮒釣りの基本として教わったアタリではありませんが、こうした動きが大型野べら特有のアタリであることを理解したうえで、アタリが出るまで待つ忍耐力と、アタリを選別できる冷静さが必要不可欠といえるでしょう。でも、そうはいっても釣り人の性で、良いアタリにはつい手が出てしまいますけどね(笑)。」
管理釣り場のパターン化されたアタリとはかなり違うことは、動画をご覧いただければ明明白白なので多くは語るまい。実際に萩野がアワせていたアタリには、彼自身がアワせてはいけないアタリだと反省の言葉を口にするものも数多く含まれるなど、やはり良いアタリに対しては反射的に動いてしまうようで、アタリの選別には相応の経験と修練が必要なようだ。
 
   
今回のような大型べらをメインターゲットとする野釣りでは、管理釣り場のように数多くへら鮒を寄せたうえで競い食い状態に持ち込んで時合いを構築するというものではなく、回遊してきた巨べらを足止めして食わせるという“待ち伏せ”的なアプローチが有効である。さらに萩野は野釣りの必須テクニックといわれている「床休め」を見事なまでに効果的に行っていた。この日萩野が床休めと言って釣り座を離れたのは5〜6回あったが、そのすべてにおいて再開1投目でアタリが出ていた。いずれもスレたり空振りで終わってしまったのだが、今少し食いが良ければかなりの釣果に結びついたものと予想される。
「床休めの目的はエサ打ちを一定時間休むことで、エサが無駄に拡散することによって汚れた地底を綺麗にし、一旦リセットすることで傍に居るへら鮒に改めてエサの存在を気づかせようというものです。もちろん近くにへら鮒が居なければアタリは出ませんが、何となく気配はあるのにアタリが出ないときにはかなりの高確率でアタリが出ますし、実際に釣れることも多いのは過去の経験から分かっています。今回も良くアタリが出ましたが、もう少し辛抱していれば良いへら鮒が食ったと思えるアタリがあったことが悔やまれてなりません。」
すべての釣りが終わった後で彼の口をついて出た言葉だが、狙い通りにアタリに結びついたことで自らに油断があったことを戒めるところは、さすがに萩野といったところだろうか。また彼が行っていた床休めには概ねふたつのパターンがあり、ひとつは一定時間全くエサ打ちの手を休めるオーソドックスな方法と、意図的に大きくエサ打ち点を変えて間欠的に休ませる方法を使い分けていた。前者の場合は休ませ過ぎてもいけないので再開するタイミングにコツがありそうだが、萩野自身明確に何分程度休めるのかは決めていないという。ちなみにこの日行った床休めはトイレ休憩や食事休憩、さらには他の釣り人の状況を見に行って情報収集する等の行動のなかで概ね15〜20分間は止んでいたので、この辺りが適当なインターバルといったところであろうか。
 
 
 
  これはあくまで筆者の所見であるが、野釣りで記録に残るような大爆釣をしたり、一生の思い出になるような巨べらに出会うためには、戦略やテクニックを磨くだけではどうにもならないことがある。それが“運”だ。野釣りは管理釣り場に比べて、絶対的に魚影密度の点では劣っている。また自然界に生きるへら鮒はその行動範囲が広く、乗っ込み期に接岸したり浅場を回遊する以外の生態については、未だにハッキリとしていない部分がある。よって頼りになるのは先達からの教えやアングラー自身の経験値ということになるが、あらゆる要素を完璧に整えたとしても、とにかく相手は生き物なので、絶対に釣れるという確証はどこにもないのだ。だからこそ考えられることはすべて考え尽くし、やるべきことはすべてやり遂げたうえで、あとは運を天に任すだけという境地で臨むことが大切なのではないだろうか。萩野自身ハッキリと口にはしなかったものの、彼の行動をつぶさに見ていると、心の奥底にそうした思いがあることは間違いないものと確信している。 へら鮒釣りに限らず、釣りにはビギナーズラックがつきものだ。初めて竿を握った初心者が超大物を釣り上げたり、キャリアの浅いアングラーが誰も釣れないときにひとりだけヒットさせたり。こうした現象は決して人事を尽くしたうえで訪れる天命ではなく、おそらくは気まぐれな神様の悪戯なのかも知れないが、逆の見方をすればそうしたチャンスは誰にでもあるということになる。またその一方で一生懸命やっていればこそ訪れる幸運もきっとあるはずで、それこそが毎年足繁く通い続ける野釣りの魔力なのではないだろうか。  
 
 
 
 
 
 
丸2日間竿を振り続けた萩野の釣果は42cmの良型のへら鮒が1枚。あとはスレで掛けた良型が数枚とマブナ、半べらは数知れずという結果であった。これを貧果と捉えるかどうかは読者諸兄の判断にお任せするとして、当の萩野自身の表情にはやりきったという満足感と、今度こそは尺半オーバーを仕留めてやるぞというリベンジを期する前向きな明るさが見てとれた。
「もちろんたくさん釣れるに越したことはありませんが、たとえ釣れなくても大自然のなかで竿を振る爽快感は何ものにも代え難いものです。今回は今シーズン最初の亀山湖ということで、取材的には初日早々にオデコを回避できましたし、二日目はへら鮒にエサを食わせることはできませんでしたが、結構ウキは動いていたので楽しめました。もちろんやるべきことはすべてやり尽くしましたので満足です(笑)。」
野釣りにおける萩野はへら鮒だけではなく、彼のウキを動かしてくれるすべての魚に対して真摯に向き合っている。当日も悠に尺を超える巨大なマブナや半べら、果てはカメまでハリ掛かりさせていたが、その何れも優しくリリースし決してぞん ざいに扱うことはなかった。それどころか、どんなものが彼の竿を絞り込んでも取り込むまでは全力で立ち向かい決して手を抜こうとはせず、時折スレで掛かる40cm超級のへら鮒が居ることに希望の灯をともし続け、何とか食わせようと全身全霊で亀山べらに挑み続けた。トーナメントシーンでも数々の修羅場をくぐり抜け、痺れるような伝説的名場面を残してきた萩野だが、競技の釣りだけではなくこうした癒しの野釣りでさえ、劇的なシーンは最後に訪れるという。この日も「次が最後の1投」と言い続けながら、結局ウキが見えなくなるまでアタリを追い続けた萩野の姿を見ればそれもうなずけよう。 「私の場合、必ずしものんびり釣るのがリフレッシュではありません。色々なプレッシャーやしがらみから解き放たれた環境で、無心でウキの動きを追い続けることが心の洗濯になるのです。根が釣り好きなのでつい夢中になってしまいますが、決して最後まであきらめなければ、意外にドラマチックなシーンが待っているものです。釣り場はきっと皆さんの身近にあるはずですし、巨べら狙いばかりが野釣りではありません。おまじないのかかった『いもグルテン』を持って、絶好のシーズンを迎えた今、是非野釣りに出かけてみてください。」
釣果的には決して派手な取材ではなかったが、いつアタリが出るかと息をのむシーンが多く、あっという間に時間が過ぎ去っていった。これが人知の及ばない野釣りの醍醐味なのかもしれないが、釣れなくても決してめげることのない萩野の今シーズンの野釣りはまだ始まったばかり。次回リベンジを誓いつつ、東の山の端から昇る満月を背に釣り場を後にした。
 
     

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