稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第59回 石井旭舟の「段底」活用術|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第59回 石井旭舟の「段底」活用術

発売から10年。この秋、生まれ変わった「段底」が新発売のときを迎えようとしている。今や冬のへら鮒釣りには欠かせない段差の底釣り(※以下、段底)用のバラケエサとして、既に多くのファンを持つ「段底」だが、釣り方そのものはこの10年で大きく様変わりをしている。その変遷については現場の第一線で竿を振り続け、「段底」の生みの親でもあるマルキユーチーフインストラクター石井旭舟自身も良く知るところだが、比較的簡単に釣れるといわれてきた段底が、これ以上難しくなってはいけないという強い思いから、ついに全面的な見直しに着手したのだ。しかし、新エサといってもその基本コンセプトは今も昔も変わらない。それだけ段差の底釣りのバラケに求められる「しっかりなじんで、抜けもスムーズ」という

エサの特性はセット釣りにおいては普遍的なものであり、段底においては唯一無二ともいえるコンセプトなのである。今回氏が新たに監修した「段底」は、時代を反映してか既存のものとは全く別物であった。ゆえに名前は同じ「段底」であっても、あえて新発売と言わせてもらった訳だが、その出来にはかなり満足しているようで、今回はシーズン・インを間近に控えた今、新エサ「段底」の特徴と使い方について紹介してもらうことにした。

良いアタリで釣りたい!だからこそ、基本を大切にする

誰が見ても「あのアタリなら釣れるよ」と言われるくらい良いアタリで釣るのが俺の信条だと言ってはばからない名手、石井旭舟。誰しも納得させるアタリで釣ることがインストラクターの使命だとも言い切る。

「良いアタリって、結局はエサ・タックル・アプローチを含めたすべてがシンプル、かつ簡単でなければ出難いものなんだ。今のアングラーはトーナメントを中心とした難しい時合いを攻略することばかりに囚われ過ぎて、へら鮒釣り本来の楽しみ方を忘れちゃいないかい?難しいことにチャレ ンジすることは決して悪いことではないが、そればかりに偏ってしまってはもったいないじゃないか。今回出来上がった新たな『段底』はウキをナジませて戻してツンという、そんな段底の基本的な釣り方の手助けとなるエサだから、今まで以上に仕掛けのセッティングやアタリの取り方に集中できるようになるはずだよ。」

麩系のダンゴエサを自在に操る深宙釣りの名手として知られる氏は、実はセット釣りの技も秀逸で、なかでも段底は見る者すべてを納得させる理論と明確なアタリを出すスタイルが支持され、多くのアングラーを魅了している。氏が常に心掛けているのが前述の通り「良いアタリで釣る」こと。しかし食いが渋くなる厳寒期、この良いアタリを出すことは決して容易なことではない。それでもやるべきことをしっかりとやっておけば、誰もが納得できるアタリを出すことが可能だと言い切る。そんな氏が心血を注いで開発に取り組んだ新生「段底」の特徴は、ひとことで言えば類稀なる扱いやすさ。バラケの抜き・持たせの自在性が重要視される昨今、難しいとされる段底でのバラケのコントロールが飛躍的に向上するものと大きな期待が寄せられている。実釣は9月下旬の椎の木湖。段底をやるには時期尚早ではあるが、そのポテンシャルの高さはハッキリと確認することができた。では論より証拠という訳で、早速新エサのポテンシャルについてレポートしていこう。

使用タックル

●サオ
「竿春きよ志 別兆」10尺

●ミチイト
オーナーばり「ザイトへら道糸」1.0号

●ハリス
オーナーばり「ザイト・サバキへらハリス」 上0.5号15cm/下0.5号40cm
※下ハリスは活性が低下するに従い、より細く長くなる(冬場は50~60cmが標準となる)

●ハリ
オーナーばり上=「サスケ」 8号、下=「へら玉鈎」 5号
※下バリは活性が低下するに従い、より小さくなる(冬場は3~4号が標準となる)

●ウキ
旭舟「技」五番
【1.2-1.6mm径テーパーパイプトップ14cm/6.0mm径一本取り羽根ボディ13cm/1.2mm径カーボン足5cm/ オモリ負荷量≒1.8g/エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】
※活性の低下に従いサイズダウンする

●ウキゴム
オーナーばり浮子ベスト2.0号

●ウキ止め
木綿糸

●オモリ
0.25mm板オモリ2点巻き

●ジョイント
オーナーばりへら回転サルカン20号

タックルセッティングのポイント

■サオ
段底に限らず底釣り全般に言えることだが、どのようなポイントであっても穂先一杯のところにウキが位置する長さの竿で底をとることが肝心で、基本を大切にする石井のタックルセッティングはまずここから始まる。これは正確なタナ取りに加え縦サソイのやりやすさや、くわせの着底位置を安定させるために他ならない。

■ミチイト
取材時はまだへら鮒の活性がかなり高かったため太仕掛けとしたが、段底が本格化する頃から徐々にミチイトは細くなり、釣り場にもよるが最も食いが渋くなる厳寒期には0.6号とすることもあるという。

■ハリス
上ハリスの15cmはほぼ固定だが、下ハリスの太さと長さは状況に応じて臨機応変にアジャストする。厳寒期に一日数枚しか釣れないような極度の食い渋り時には、太さは0.3号以下となり、長さも90cm近くまで伸ばすこともあると言う。このように、あくまでベストセッティングはへら鮒が決めると言う柔軟な姿勢が石井の基本スタンスだ。

■ハリ
暖期ということもあり上バリは「サスケ」8号と大きめを使用したが、いわばこれはMAXサイズであり、厳寒期の釣りで抜きを意識するときは当然ながらサイズダウンさせる。なお下バリも本格シーズンには小さくなり「へら玉鈎」3~4号が標準仕様となる。

石井旭舟流 「段底」活用術のポイント 其の一:簡単なシステムで釣れる段差の底釣りを、自ら難しくしないこと!

「冬になると皆が段底をやるようになるが、ナゼだか分かるかい。それは釣りのシステムが簡単で釣りやすいからさ。とかく釣れなくなると色々と難しいことに手を出してしまいがちだが、エサの方向性・仕掛けのマッチング・バラケの抜き方さえ間違えなければ、必ず釣れるのが段底の最大のメリットだから、できるだけシンプルに組み立てることが大切なんだ。」

この言葉を聞くだけで何となく釣れそうな気がしてしまう記者だが、皆さんもそう感じはしないだろうか。事実、釣り教室における氏の解説やアドバイスは単純明快であり、多くの悩めるアングラーを不釣の迷路から救い出している。確かにへら鮒釣りは奥の深い釣りではあるが、自ら難しさの深みにハマることは無いだろう。

「段底もここ10年で様変わりしたが、根本のところではそう大きな違いはないと思っている。難しいと感じるようになったのはアングラー自身が迷いの中で、気づかないうちに難しいことに手を出しているからなんじゃないかな。バラケのブレンドこそ変わったが、俺は今でもバラケをどう抜くかを考え、仕掛けでは厳寒期にはミチイトもハリスも細くしている。ただしウキだけは小さくし過ぎないことが大切で、アタリをしっかり出すにはある程度オモリを背負うものが使いやすいと思っている。特にアタリが出難い激渋時には下ハリスだってかなり長くもするし、マメに長さを変えて交換もする。この下ハリスの交換に関しては意外に億劫がってやらない人が多いね。確かに交換すればタナを取り直さなければならなくなるので、面倒だと感じている人が多いのかも知れないが、厳寒期に1枚でも多く釣ろうと思うのであれば、やるべきことをしっかりやらなければ釣れないよ。俺って釣りに関しては意外に繊細だろう?(笑)」

基本の踏襲こそが氏の釣りの根幹を成しており、その大切さを最も知るアングラーだからこそ、その言葉の重みはなにものにも代え難い。これから新エサの紹介をする前に何だが、エサよりも以前にやるべきことをやり、整えるべきものは整えたことを前提に、いよいよ新エサの特徴を生かした活用術の本質に踏み込んでみよう。

石井旭舟流 「段底」活用術のポイント 其の二:「段底」の特性を生かし「粒戦」のポテンシャルを100%引き出す

「正直言ってこれほどまとまりやすく、しかもタナまで持って抜けるエサは他にはないね。よくぞこれだけのエサができたもんだと我ながら思っているよ。どうして今こうした性能をもつエサが必要なのかといえば、それは今や宙釣りでは当たり前になっている『粒戦』を底釣りでも活用し、深いタナであってもそのポテンシャルを100%引き出すために他ならない。そのためには、加えるほどにまとめることが難しくなる『粒戦』をコントロールするための新たな麩材がどうしても必要だったんだ。しかも誰でも簡単に使える扱いやすい麩材がね。」

自画自賛ともとれる氏の言葉だが、さかのぼれば初めて「段底」が発売された2006年当時、多くの管理釣り場ではこれで十分過ぎる釣果を得ることができていた。既に「粒戦」も世に出てはいたが、段底では依然「ダンゴの底釣り夏」+ふるった「新B」をベースにしたバラケエサが主流であり、一部に微粒子ペレット「ペレ宙」をブレンドしているアングラーはいたが、それは極少数派にとどまっていた。また肝心のアプローチはジワジワ抜きから塊の一気抜きへと変わりつつあったが、ナジん ですぐに抜くことは無く、もちろんゼロナジミなどという概念自体なかった時代である。この当時の段底の名手と言われたアングラーの多くは我慢強くアタリを待つタイプが多く、昨今のように自らガンガン攻めてアタリを引き出すアングラーは稀であった。

その後「粒戦」が段底でも広く使われるようになるのだが、当初はペレット特有の集魚性だけを期待してバラケにブレンドされていたものが、やがて宙層に居るへら鮒を底へと引きずり込む誘導力が注目されるようになり、これが上手くできるか否かで釣果に大きな差が表れ始めたのである。確かに「粒戦」には優れた集魚力があるが、大量にブレンドに加えるとボソボソとまとまり難く、大変扱い難いバラケになってしまう。卓越したエサ付けテクニックを持つアングラーはこうしたタイプのバラケを巧みに扱い、突出した釣果を叩き出すことも可能だが、記者を含め一般的なレベルのアングラーには到底扱いきれるシロモノではなかったのだ。そこで氏は、この点に注目して新エサの開発に取り組んだという訳だ。

「釣りは時代の変化と共に変わるもの。それに追従できなければ決して安定的に釣ることはできない。昔も今も変わりなく釣る人は、時代の変化に対して自らの釣りを大きく進化させているんだ。とはいえ皆がみんな同じようにできる訳ではない。だからこそ俺達のように現場が分かって、それをエサ作りに反映させる橋渡し役が必要なんだ。つまり俺たちの使命は、時代にマッチした使いやすいエサを提供することなんだ。」

また氏は進化の必要性・重要性を説く一方で、へら鮒釣りの根幹部分である「基本」は変えてはいけないとも言い添えた。

「変えてはいけない基本とは、ウキをナジませてしっかりしたアタリを出すこと。特に段底では集魚力と誘導力に優れた『粒戦』がブレンドされたエサを確実に底付近まで送り込み、意図するタイミングで抜くことが重要なんだ。既存のエサでもホールド力のあるものは多く、持たせるだけであればそれほど難しいことではないが、タイミング良く抜くこととなると話は別だ。基本レシピで仕上げられたエサを手にしてみれば分かるが、これでハリから抜けるのかと思えるほどハッキリとしたまとまり感があり、ビギナーでも容易にエサ付けができるようになっている。これは非常に大切なことで、不慣れなアングラーでも使いやすいエサというものは当然ながら誰もが使いやすいエサであり、それをベテランが使うととてつもなく凄い武器になるんだ。もしかしたらこのエサ、大化けするかもしれないぜ(笑)。」

石井旭舟流 「段底」活用術のポイント 其の三:“抜き” ありきではない近代段底、バラケの自在性は欠かせない

バラケをタナまで持たせ、ウキをナジませて釣るというスタイルは、今も昔も変わらない段底の基本アプローチだが、以前とは明らかに異なっているのがバラケの抜き方の変化である。かつての段底では完全にバラケが抜けた後のアタリを狙うのがセオリーであり、事実そうした組み立て方をすれば必ず釣れたものだ。ところが近年段底で抜きん出た釣果を上げているアングラーのなかには必ずしもバラケを抜かず、意図的に上バリに残した状態でも食いアタリを出し続け、時合いを崩壊させることなく安定的にヒットに結びつけているアングラーも少なくない。こうした事実があることは氏も感じていて、「理由は定かではないが、上バリにバラケを小さくつけて待っている方が明確でしっかりしたアタリが出ることが多くなった。」という自らの経験を語っていた。またこれとは逆のケースとして、まったくウキにナジミを出さずに釣り込む人もいる。もはや宙釣りでは当たり前となっている、いわゆる“ゼロナジミ”のセット釣りだが、これが段底でも当たり前のように行われているのである。いずれも「粒戦」の存在がこうした特殊なアプローチを可能にしているものと考えられるが、先に述べたように新生「段底」のような特性を持つ麩材がなければ「粒戦」のポテンシャル、すなわち早く抜いてもタナが崩壊することなく、また持たせたままでもウワズらないという性能を生かしきることは不可能だ。

「段底でうまく釣っている人の共通点は、変化する時合いに合わせてバラケを抜いたり持たせたりしているね。しかし、こうしたコントロールは口で言うほど簡単ではない。だからこそアタリを出しきれずに悩んでしまうアングラーが増えているんだが、新生『段底』を使えばこうした難しさを軽減し、バラケの抜き加減・持たせ加減を意のままに操ることができるようになる。使い方のコツは基エサをややしっかり目に仕上げておき、後は手水調整だけでタッチを合わせるだけ。基本は持たせたいときは硬め、抜きたいときは軟らかめ。さらにエサ付け前の手揉み(主に強さと回数)を加減することで、そのタイミングを自在に変えられるんだから、これほど明確で簡単な調整方法は他にはないよ。」

最後に氏はこうも付け加えた。

「バラケを早く抜かなければアタリが出難いという場面は決して少なくない。だからといってまったくウキにナジミ幅が出ないほど早く抜くことは勧められないね。なぜならバラケがどこで抜けているのかが分からないので、水中を正確にイメージすることができないじゃないか。これを続けていると釣れているときは良いが、一旦釣れなくなったときにどういう方向性で調整していけば良いのかの判断が難しく、結果として迷路に陥りやすくなるんじゃないかい? だからどんなに早く抜くにしても、俺は1~2目盛りはトップをナジませるようにしている。ただし必ずしもこの状態でバラケを上バリに残すというのではなく、ナジミに入った直後に抜いてしまうんだ。これならばすぐにトップはくわせだけの状態になり、着底した直後の早い食いアタリも捉えることができる。これが最も早いタイミングの抜きであり、これでアタリが出ないときは下ハリスを伸ばすことで抜けるタイミングをさらに早めれば良い訳だ。」

氏は常々ウキをナジませて釣ることの大切さを説いている。これは単に釣果という結果を求めることが目的ではなく、へら鮒釣り本来の楽しさであるウキを通したやり取りに重きを置いているためである。極論してしまえばウキをナジませもせず、強く明確なアタリを出すことなく何となく動いたアタリで釣るのであればウキはいらないことになる。そうなってしまっては、もはやへら鮒釣りではなくなってしまう。氏はこうした風潮が広がることを危惧しており、自ら率先して釣れるナジマセ釣りを貫くと同時に、釣れるエサ作りに余念がないのだ。

総括

「たくさん釣る人のことを『引き出しが多い』と言うが、難しい時合いを攻略する高度なテクニックをたくさん持つことも大事だけど、それ以上に大切なことは今持っている引き出しを常に使い切ること。なぜなら釣れなくなると余程意識していないとつい惰性になりがちで、億劫がらずにマメに色々と手を尽くすアングラーって意外に少ないものなんだ。たったこれだけのことを心掛けるだけでかなり釣れるようになるはずだが、さらに俺達が簡単に釣れるエサを提供することで釣果アップにつながれば、これ以上嬉しいことは無い。そう いった意味では新生『段底』は現代の釣りにマッチしたうえに、エサをナジませて釣るというへら鮒釣りの基本が実感できる使いやすいエサに仕上がったと自負しているよ。」

徹底した基本の積み重ねのうえに成り立つ釣りを心掛けているからこそ、多くのアングラーの悩みも理解できるし、今何が必要であるのかをよく知っている。そんな氏だからこそ成し得た「段底」のフルモデルチェンジ。氏が自信を持って勧める新生「段底」により、この冬は今までにないような段底ブームが到来するような予感がする。