稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第62回 原点回帰で入れて抜いてアタらせる 萩野孝之のトラディショナルウドンセット釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第62回 原点回帰で入れて抜いてアタらせる 萩野孝之のトラディショナルウドンセット釣り

へら鮒釣りには明らかに流行があるが、ときにそれは長い年月を経て再び繰り返される。今回紹介する萩野孝之の浅ダナウドンセット釣りも、そんな釣り方のひとつだろう。なぜなら多くのアングラーがセット釣りをマスターする際に手本としたであろう「バラケをタナに入れて抜いてアタらせる」という、ある意味古典的、伝統的ともいえるアプローチだからだ。ご存知の通り萩野の釣りのスタイルには、ブレることなくこうしたスピリットが貫かれている。それは取りも直さず、こうした攻め方が最も強く、釣れることを信じているからに他ならない。今回は昨年度マルキユーM-1CUPにおいて盤石の強さを見せつけた、原点回帰ともいえる萩野流浅ダナウドンセット釣りに迫ってみたい。

色々あって原点に戻った、浅ダナウドンセット釣りの〝最新スタイル〟

「トーナメントで勝つためには何としてでも自信をもって臨める釣り方が手の内に必要なのですが、私は元来セット釣りが苦手なので、未だに試行錯誤を繰り返している状態なのです。」

萩野には過去様々な釣り方を披露してもらっているが、3年半ほど前に取り上げた浅ダナウドンセット釣りの取材時にはこんなことを言って周囲を驚かせた。そのとき見せてくれたのは「パワーで寄せてライトに食わせる」と表現したように、当時主流となっていたパワー系セットを萩野流にアレンジしたものであったが、既にそのときに今回の釣りのベースとなるヒントはつかんでいたのかも知れない。それが意外にも静かなウキの動きと小さな食いアタリ、そして驚くほど高いヒット率であった。 当時萩野は、この小さなアタリについて「極めてナチュラルな誤飲のシステム」と表現していたが、この核心部分をブラすことなくさらにブラッシュアップさせたのが、昨秋M-1CUPでみせた圧巻の浅ダナウドンセット釣りといえるだろう。短時間であったがそのときの釣りを目の当たりにし、今回改めて萩野自身の解説と共に記者が見た釣りは、かつて隆盛を極めたウドンセット釣りに回帰したような古典的なスタイル。ウキを深くナジませ、タナでバラケを抜いた後に静かにアタリを待つという、実に分かりやすいアプローチなのだが、さらに萩野は独自のアイデアで現代流のテイストを加え、いわば古典的〝最新スタイル″の浅ダナウドンセット釣りへと昇華させたのである。

「極端に釣れない訳ではないのですが、ここ数年、かつて爆発的に釣れた大バラケのセット釣りがボケやすくなったというか、安定感に欠けるようになったように感じていました。と同時に、無駄に寄せずに必要最小限のへら鮒をタナにしっかり寄せることで、それまで以上に安定的に釣れ続くようになっていることに気づいたのです。まるで昔のセット釣りみたいに。」

こうした変化は多くのアングラーが薄々気づいていたようだが、たとえ分かっていたとしても、そうした状況に自らの釣りをアジャストさせることは容易なことではない。しかし萩野にとってはさほど難しいことではなく、そうした変化に自然と対応できたという。なぜなら、すべての釣り方においてウキを ナジませて釣るという、へら鮒釣りの基本を軸としながらも、常に変化対応力に磨きをかけてきた彼にとって、この程度の変化に合わせることはさほど難しいことではなかったのかも知れない。そんな萩野だが、並み居るトップトーナメンターが顔を揃える全国決勝大会で、他を圧倒するブッチギリの釣果で勝利するには何か訳があるに違いない。それは後述するとして、早速〝最新スタイル″の萩野の釣りを見てみよう。

使用タックル

●サオ
シマノ 特作「伊吹」11尺

●ミチイト
オーナー「白の道糸」0.6号

●ハリス
オーナーザイトSABAKIへらハリス 上=0.5号-8cm、下=0.4号-30〜40cm

●ハリ
上=オーナー「バラサ」6号、下=オーナー「軽玉鈎」4号→「クワセ」4号

●ウキ
一志「セットスピリット」中細パイプトップ三番→五番
①三番【1.4-1.1mm中細テーパーパイプトップ8.0cm/6.0mm径二枚合わせ羽根ボディ4.5cm/ 1.0mm径カーボン足6.5cm/オモリ負荷量≒0.55g/ エサ落ち目盛りはくわせをつけて全7目盛り中3.5~4目盛りだし】
②五番【1.4-1.1mm中細テーパーパイプトップ8.0cm/6.0mm径二枚合わせ羽根ボディ5.5cm/ 1.0mm径カーボン足5.5cm/オモリ負荷量≒0.78g/ エサ落ち目盛りはくわせをつけて全7目盛り中3.5~4目盛りだし】

●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2.0号

●ウキ止め
オーナーばり

●オモリ
内径0.3㎜ウレタンチューブ装着板オモリ1点巻き

●ジョイント
オーナーばり「Wサルカン(ダルマ型)」24号

タックルセッティングのポイント

■サオ
厳寒期真っ只中の取材であったため、軟らかめの特作「伊吹」を使った萩野だが、彼のアプローチを正確にトレースするのであれば、この釣り方の隠れたポイントである「正確かつソフトなエサの打ち込み」がしやすい調子の竿が必要不可欠だと言う。長さについては時節柄新べらが多く混じるという理由から、やや長めともいえる11尺を継いだが、旧べらが動き始める頃には新べらの含有量も減少するため、さらに短い竿での正確な打ち込みを優先させた方が良いだろう。

■ミチイト
バラケが落下途中でハリから抜けないよう、エサに対する負荷をできるだけ軽減するために細めのミチイトは必須アイテムだ。萩野はこの時期、一般的な管理釣り場では素早い沈下とスムーズなナジミ込みを実現するために0.6号を標準とするが、大型ばかりが揃う釣り場では強度も無視できないため0.8号までは適合範囲としている。

■ハリス
萩野自身はやや長めのセッティングだと言うが、取材時はまず40cmからスタートして35cm、30cmとステップを踏みながら徐々に詰めていった。抜き系のセット釣りに長けたアングラーであれば、小ウキ+短バリス(20cm前後)の組み合わせでも釣れたかも知れない。しかし彼はあえてそうした方向には向かわず、いわば遊びを残した形でタックルセッティングを煮詰めていった。ちなみに極度の食い渋り時には50cm、60cmとなることもあるが、これから徐々に活性が高まる時期を想定すると、今後もこの程度の長さで落ち着くだろうと言いつつも、あくまでハリスの長さはへら鮒が決めるものと付け加えていた。

■ハリ
バラケのタッチも重要だが、イメージ通りにバラケの抜け方をコントロールするためには、ハリの種類やサイズの選択も重要である。今回萩野は「バラサ」6号を使ったが、さらにへら鮒の動きが活発化するようであれば同7号にサイズアップさせることで、エサ付けの際の難しい調整が不要になるという。一方、下バリはくわせのキープ力が必要になるが、萩野はさらにエサの動き(※沈下速度やハリス張り、アオリ具合etc…)も形状や重さによって変わるので、その使い分けが重要なポイントになると言う。取材時は「軽玉鈎」4号ではウキが動き過ぎるようになった時点で「クワセ」4号にチェンジ。同じ「軽玉鈎」5号にサイズアップしたのではダメなのかと訊ねると、重量で「軽玉鈎」4号(12.4㎎)と5号(16.9㎎)の中間に位置するのが「クワセ」4号(15.2㎎)であって、取材時はこの重さによってベストのウキの動きになったという訳だ。

■ウキ
ウキは萩野の釣りの軸であるが、いつも以上にそのウェイトが大きいのが今回使用した浅ダナセット用の一志「セットスピリット」中細パイプトップである。最大の特徴はサイズ(※オモリ負荷量)を変えてもトップが同じ長さの設計になっているため、交換時の視覚的違和感を軽減することができる点だ。もちろんウキのナジミ幅や動きといった部分に生じる差異も最小限に抑えられ、同じ感覚で使うことができる点も見逃せない。取材時は活性の低下による食い渋りを想定して三番からのスタートとなったが、次第に活発になるウキの動きに、開始から約2時間でサイズアップ(五番)を行った。

萩野孝之流 浅ダナウドンセット釣りのキモ 其の一:タナを作り、ウキを動かし過ぎないスタンダードなアプローチ

ここ数年、トーナメントシーンを席巻してきたのはパワー系とか抜き系とかいった、いわば伝統的なへら鮒釣りのアプローチからかけ離れた〝尖がった″釣り方だったことは間違いない。しかし、食い気のあるへら鮒を数多く寄せるために必然的に大きくならざるを得なかったバラケや、ナジミ幅を全く出さない釣り方に、かねてより違和感を覚えていた萩野。勝つためにはそれ以外選択肢がなかった頃はパワー系でバラケを食われることを止む無しと割り切り、抜き系に至ってはくわせを自然に漂わせる誤飲系のアプローチに活路を求め ていた時期もあったが、やがてそうしたアプローチに陰りが見え始めると、彼自身へら鮒釣りの拠り所としている「タナにバラケを入れて抜いてアタらせる」という古典的、伝統的なアプローチに着目した。それにより食い気のあるへら鮒が飛び込んで来るための適度なスペースと一瞬の間ができるようになると、それまでモヤモヤしていた霧が晴れたかのような、彼本来の自信に満ち溢れた釣りが蘇った。その結果がいうまでもなくM-1CUP連覇であった。 今回その釣りを再現してもらった訳だが、当然ながら季節が異なるためまったく同じようには比較はできない。しかし、その分を差し引いても釣りの特徴は明らかだ。厳寒期であるためウキの動き自体は少ないが、時間の経過と共に活発にウキが動き始めようとすることを良しとはせず、むしろそれを抑えようとしてすべてのセッティングを煮詰めていく。すると、驚くほどウキの動きが静かであるにも関わらず的確にサワリを伝え、それがまるで食うことを約束しているような前触れとなり、自信をもってアタリを待っていると、ほぼ確実にアタリへとつながるのである。

「これまで普通のセット釣りでは、タナを作ること自体不可能であったことは事実。そのため高活性期には大バラケで大量に寄せながらバラケも食って構わないというパワー系アプローチで釣り込めたし、低活性期にはバラケを上層で抜いてハリスの倒れ込みで食わせる抜き系のアプローチで釣りきれたのですが、数年前からこうした釣り方では時折穴が開くというか、釣れていても徐々に時合いが崩れることが多くなってきたように感じていたのです。そんななかでも安定的に釣る人はいるもので、彼らに釣り方を訊ねたり、自身で色々と試しているうちにこれならいけるという感触を得たのがこの釣り方なのです。見ての通りナジマセ系の釣りですが、だからといってタナで開かないバラケでは上手く釣れません。表面を適度にバラケさせながら、その時々で適量と思える量のバラケだけ残してタナに入れ、自然に傍に寄っているへら鮒にその残りを落とさせると、サワリの後で一瞬の間があり、やがて明確な食いアタリが出るようになるのです。こうしたアタリを持続させるためには無駄に寄せないことが肝心であると当時に、ウワズリは厳禁なのです。」

動画を見れば一目瞭然だが、萩野の言う通りにウキが動き、アタリへとつながっていることが良く分かる。これこそがかつて浅ダナウドンセット釣りの基本といわれた動きであり、若いアングラーには目新しいアプローチかも知れないが、古くからのアングラーであれば誰もがなじみ深い動きに違いない。しかし多くの情報が飛び交う現在、この基本を忘れてしまった方も少なくないのではないだろうか。ある意味原点回帰ともいえる釣り方だが、萩野にとっては変化し続ける時代のなかにおいても常に軸としていた釣り方であり、アジャストするには何の抵抗も違和感もなかったに違いない。むしろストレスなく自然にできるDNAが既に刷り込まれている彼にとってこれ以上歓迎すべき状況はなく、苦手と言ってはばからないセット釣りが最強ウェポンになった瞬間でもあった。

萩野孝之流 浅ダナウドンセット釣りのキモ 其の二:粗粒子を封印!? 計算された微粒子バラケで静かに寄せる

アプローチの基本的なシステムが分かったところで、萩野流の浅ダナウドンセット釣りを支える柱となっている要素についてさらに細かく見てみよう。再三触れているが、この釣りでバラケが占めるウェイトが大きいことは火を見るよりも明らかだ。すなわち活性が低いときは摂餌を刺激すために粗めの粒子を活用し、活性が高いときは微粒子メインのブレンドで動きを抑制しているのだ。なかでも萩野にとって「バラケマッハ」の存在は特別なものであり、両ダンゴであれセットのバラケであれ、彼が使用するエサには大抵「バラケマッハ」がブレンドされている。

「私にとって『バラケマッハ』は、すべての釣りのベースとなるエサなのです。比較的細かな粒子で構成される『バラケマッハ』は比重や粒子感の面で流行に左右されない汎用性があり、時合いの変化に対してもブレることの無い集魚力と摂餌力を発揮しますので、昔も今も『バラケマッハ』は手放すことができません。取り分け今回のセット釣りではへら鮒を興奮させずに引き寄せ、落ち着いた状態でくわせを口にさせなければならないため、粗い粒子の少ない麩材でブレンドを構成させる都合上、無くてはならないエサになっているのです。」

超ロングセラーであると同時に熱烈な愛用者が多い名エサ「バラケマッハ」。そのポテンシャルの高さに絶大な信頼を寄せる萩野だが、キモとなるのはブレンドだけでなく、エサ付けが極めて重要な要素となっていることを忘れてはならない。基本的にはタナまで持たせてから抜けるようにエサ付けしているが、いつまでもぶら下がったままでは必要量のへら鮒を寄せられず、くわせに誘導することもできない。最も多用するのが強い圧は加えずに表面だけを滑らかに整え、フワッとエアーを噛ませた状態でハリに抱かせるエサ付けで、そのサイズは直径15mmほどの球形に近い水滴型だが、萩野のイメージ通りにバラケながら沈下するとトップの目盛りで2~3目盛りのナジミ幅となる。そしてへら鮒が傍に寄ってくるとそのアオリですぐに抜け落ち、やや間があってから明確な食いアタリが出るようになる。

「パワー系では多少ハシャがせたとしても、また抜き系では多少早く抜けたとしても大勢に影響はありませんが、この釣りではとにかく丁寧に、かつ静かにエサを打ち込んで確実にタナにバラケを送り込むことが肝心なのです。そのために構成された微粒子系ブレンドですから、寄せるへら鮒は量より質と言い聞かせ、無駄に多くのへら鮒を寄せるのではなく、くわせに反応する食い気のあるコンディションの良いものを必要最小限寄せることに専念するのです。」

そうしたバラケを生かすも殺すも、きめ細やかなキャスティングがあってこそだということも見逃してはならない。決して派手なテクニックではないが、この釣りを陰で支えているのは間違いなくこのキャスティングのテクニックである。ピンポイントにへら鮒を寄せるための正確性はもちろんのこと、前述のエアーを噛んだソフトタッチのバラケをタナまで持たせ、狙い通りにバラケさせるためには必要不可欠なテクニックなのである。基本的には着水時のショックを極限まで和らげるための徹底したソフトランディングを目指しているが、一投たりともバラケが落下途中で抜けないよう、キャストする際きめ細やかなラインテンションの操作が毎投のように行われているのが特徴だろう。決して力を加えず、万一沖めに着水したときには腕を伸ばしてサオを前方に送り出したり、手前に着水したときには不用意にウキを跳ね上げたりしないよう配慮を怠らない。それはときにギクシャクした動きにも見えるが、こうした地味なロッドワークが強い釣りを支えていることは紛れもない事実なのだ。

萩野孝之流 浅ダナウドンセット釣りのキモ 其の三:交換時の違和感を払拭した「セットスピリット」

浅ダナウドンセット釣りでは、途中でウキの交換を行うことが少なくない。その頻度は明らかに他の釣りよりも多いが、もちろんそれは状況に見合ったウキを使い、変化する時合いとの整合をとるために他ならない。またあらかじめ釣り方や細分化されたアプローチに見合ったウキを選択することも重要で、今回はウキのアジャスティングの妙が見事に表れていた。 使用したウキは一志「セットスピリット」中細パイプトップ。このウキは昨年のM-1CUP全国決勝大会の際に萩野が使用したものだ。それまでに「セットスピリット」には盛期のパワー系セット釣りを想定した太パイプトップと、冬場の抜き系セット釣り向きのPCムクトップがラインナップされ、既に多くの愛用者に支持されていたが、萩野自身このウキでは〝普通″のウドンセット釣りには必ずしもマッチせず、勝負のできるウキではないという思いが燻っていたという。そこで萩野がイメージするセット釣りを可能にすべく改良が加えられた訳だが、その結果は皆さんご承知の通りM-1CUP連覇という輝かしい成績につながったのである。

「ウキは釣り方に合わせてタイプやオモリ負荷量の異なるものをアジャストすることがセオリーですが、自分自身ウキを交換した際、目に見えるトップの長さや目盛りの違いに視覚的な違和感を覚え、それが要因となって釣りのリズムを崩していたことに気づいたのです。そこで、たとえウキを交換してもオモリ負荷量だけが変わったことによる効果を生かすためトップの長さをすべて統一し、さらにボディサイズを変えても(ラインナップは5mm刻み)全長が変わらないよう、足の長さをボディ長に反比例するように調整したのです。するとそれまで感じていた違和感が払拭され、イメージ通りに釣り続けることができるようになったという訳です。」

こうした自分に合ったウキを即座に生み出せるのは、プロとして日々ウキ作りに携わる萩野ならではのことだろう。またトップの長さを変えずにオモリ負荷を変えるという斬新な発想もさることながら、異なるバランスのウキの機能(動き)を揃える技術はさすが一流ウキ師であるが、中細パイプトップを装着した「セットスピリット」は視覚的なアドバンテージ以外にも見逃せない大きな働きを担っている。それがソフトタッチのバラケをタナまで持たせる働きだ。萩野が目指したセット釣りは、古典的な普通のセット釣りのアプローチだが、その完成度はかつてのセット釣りの比ではないくらい高い釣りである。意図するバラケを狙い通りにタナまで持たせ、僅かでもへら鮒がサワれば即座に返す。そしてくわせを食うまでのへら鮒の動きを漏らさず伝え、確実なアタリへと導くためには、この表現力は「セットスピリット」中細パイプトップをおいて他にはないだろう。

萩野孝之流 浅ダナウドンセット釣りのキモ 其の四:釣れて当然!? 高ヒット率を可能にする萩野流アタリの選別法

ところで肝心の食いアタリだが、実釣時何度となく萩野はウキの動きからアタリの出るタイミングを言い当てていた。このこと自体、彼ほどの名手であればそれほど難しいことではないが、驚くべきはアタリの見送り方とそれを選別する能力である。

「慣れも必要でしょうが、ウキの動きが少なく静かなので迷うことなく食いアタリは見分けられます。もちろん自信を持ってアワせてもカラツンになることはありますが、無駄なアタリに手を出さないことは、この釣りにおいて重要なことなのです。なぜならエサの傍に寄っているへら鮒の絶対数が少ないので、万一スレでもしたら再び寄せる作業から始めなければならないからです。決してへら鮒を騒がせず、常に安心して落ち着いた状態を維持することで成立する釣り方なので、アングラーサイドがアタリを選別する能力を高めれば、食いアタリそのものも驚くほど分かりやすくなるのです。」

基本的なウキの動きとヒットパターンは動画とイラストで確かめて頂くとして、アタリは出すものと良くいわれるが、すべての要素が高次元でマッチングすれば、ここまで分かりやすく無駄のない規則的なウキの動きで釣れるのだということを、改めて実釣で示した萩野。卓越したテクニックだけではなくメンタル面での充実が、さらに円熟味を増した彼の釣りに奥深さを加えているようだ。

総括

極めて「普通」に見える萩野の浅ダナウドンセット釣りだが、その裏にあるエサ・タックル・アプローチが三位一体となって織りなすトータルバランスの完成度の高さを忘れてはならない。へら鮒釣りは年々変化し続けており、その変化に対応できなければ、やがてガラパゴス化して時代に取り残されてしまうだろう。萩野自身へら鮒釣りで飯を食い、へら鮒界のトップランナーであり続けるためには、自らの進化の歩みを止める訳にはいかないことは百も承知だが、そのテクニックや理論を多くのアングラーに伝えるための努力もまた、決して怠ることのできない重要な仕事である。

「へら鮒釣りは非常に早いスピードで進化を続けています。やっとの思いで構築した自らの釣りも、そう遠くはない未来に過去のものになってしまいます。大切なことはウキの動きから常にベストを探ることであり、そのためには変化対応力が必要不可欠です。時代にマッチした釣り方をより優しくするため には、釣りの軸となるウキが十分に機能しなければなりません。難しい釣りに挑戦することもへら鮒釣りの楽しみ方のひとつかも知れませんが、その釣りをスタンダード化し優しくすることが私の使命ですので、今後もウキと自身の釣りを通して最新のへら鮒釣りのスタイル、楽しみ方を発信していきたいと思っています。」