稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第79回 高橋秀樹の浅ダナ両ダンゴ釣り|へら鮒天国

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稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第79回 高橋秀樹の浅ダナ両ダンゴ釣り

釣れるエサのタッチには流行のようなものがある。そうした意味では明らかに軽めのネバボソタッチが現代の主流と言って良いだろう。実際釣り場で使われているエサを見ると、ブレンドの違いこそあれ「バラケマッハ」や「凄麩」といったベースエサに「ガッテン」や「浅ダナ一本」、さらには昨シーズン発売された「カルネバ」などをミックスさせたしっかりめのタッチが多いことが分かる。今回はそうした主流のダンゴエサでの釣りを紹介するのではなく、ある意味〝真逆〟のタッチともいえる極ヤワタッチのエサで釣りまくる平成の爆釣王、マルキユーフィールドテスター高橋秀樹の浅ダナ両ダンゴ釣りをピックアップ。猛暑のなか沸き上がるへら鮒に臆することなく挑み続けるファイター高橋秀樹の熱い釣りをとくとご覧あれ!

極ヤワダンゴは体に刷り込まれたDNAだ!

多くのアングラーは自らのフィッシングスタイルを構築するために様々な試行錯誤を繰り返し、時代によって変化する流行を取り入れながら常にブラッシュアップを重ねている。良い言葉で表現すれば「時流に乗る」とか「変化対応力に優れている」ということになるのだろうが、一方で流行には一切左右されず我が道を行く「偏屈者」や「頑固者」も少なくない。そうしたアングラーはときに「ガラパゴス化」などという蔑まれた表現をされることもあるが、高橋は明らかに後者であり、へら鮒釣りに関しては自他共に認める「個性的」なアングラーである。特に今回スポットを当てた〝極ヤワダンゴ〟の釣りは、彼が物心ついた頃から勤しんできた至極当たり前のエサ使いであり、いわば彼の体に刷り込まれたDNA。当時はもちろんのこと、現在でもたくさん釣るためには欠かせない生命線ともいえる独創的なエサ使いなのである。

「自分の釣りが皆さんと少しズレている(違っている)ことは自覚しています。確かに自分の釣りは軟らかめのエサを基本としていますが、釣りを始めた頃からこれでやり続けているので特別なこととは思っていませんし、今でも不都合を感じたことはありません。ただし、現在では当たり前のようになった大型べら相手の釣りにはやや不向きと感じています。私はどちらかといえば大型べら狙いの釣りよりも2~3枚/kgクラスの中小べらをリズム良くたくさん釣るのが大好きなので、釣り方も自然とそういう釣りに合うようになっていったのかもしれませんね。だからどんなにエサ打ちポイントにへら鮒が湧き上がっても苦にしませんし、むしろ沸けば沸くほどファイトを掻き立てられるというか、『ヨシ!かかってこい』みたいな気分になるのが楽しいですね(笑)。」

記者もどちらかといえば軟らかいエサ使いをする方だが、実際高橋が使うエサに触れてみるとその違いに驚かされる。それはまさに異次元のタッチ。その極ヤワタッチのダンゴエサを沸き上がるへら鮒の群れの中に投じ、弾かれることなくタナにナジませ、縦にしっかりアタらせて釣り込むその秘訣について、早速紐解いていくことにしよう。

使用タックル

●サオ
がまへら「千早」9尺

●ミチイト
サンラインパワードへら道糸「奏」 1号

●ハリス
サンライントルネードへらハリス「禅」0.5号  上19cm/下25cm

●ハリ
上下がまかつ「だんごマスター」 8号

●ウキ
水幸作「H/Tロクゴー」5号
【1.4㎜径テーパーパイプトップ10.0cm/ 6.5mm径二枚合わせ羽根ボディ7.0cm/ 1.0mm径カーボン足5.0cm/オモリ負荷量≒1.1g/ エサ落ち目盛りは全8目盛り中4目盛りだし】

●ウキゴム
ラインシステムウキゴムSSS

●ウキ止め
サンライン「とまるウキ止め糸」

●オモリ
内径0.5mmウレタンチューブ装着 0.25mm厚板オモリ1点巻き

●ジョイント
黒マルカン

タックルセッティングのポイント

サオ
竿は短いほど回転の速い釣り込みが可能だが、取材フィールドによっては釣り座が高く釣り難さを感じるところもある。今回訪れた清遊湖などはそうした釣り場のひとつであり、そうした部分を加味した上で9尺を継ぎ、無理無駄のないストレスフリーな釣りを展開してみせた。

ミチイト
ウキが立った直後に勝負が決まることも多い盛期の浅ダナ両ダンゴ釣り。しかも高橋のように瞬殺勝負を信条とするアグレッシブなアングラーにとっては、ラインの張り(直進性)は釣果を左右する重要なファクターとなるため、盛期においてはそうした特性を持つパワードへら道糸「奏」の1.0号を基準としている。

ハリス
スタート時のセッティングは上下共に太さ0.5号、長さは上19cm/下25cmを基本とする。この釣りの標準的なものだと言うが、決してこの長さに固執することなく状況に応じて数センチ単位でこまめにアジャストするのが高橋流。元々短めのセッティングであることから1~2cm違うだけで大きなウキの動きの違いとなって現われるため、へら鮒の状態がめまぐるしく変化するときには僅か数投で交換することも少なくないという。

ハリ
極ヤワダンゴを持たせるためには、ホールド性能に優れた大きめのハリが必要不可欠だ。高橋が愛用するのはがまかつ「だんごマスター」8号。サイズ的には他のハリと比べてやや小さめだが、そのフォルムによるホールド力は群を抜いており、高橋の釣りを陰で支える立役者となっている。

ウキ
この釣りの核心部分であるエサ持ちという点において、ウキの果たす役割は極めて大きいといえよう。まず重要なのは浮力(オモリ負荷量)であり、おそらく一般的な浅ダナ両ダンゴ(タナ規定1mを想定)で使用するものよりもワンサイズほど大きなものを基準としている点が高橋流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモであろう。このため中細パイプトップであっても跳ね上がるような動きは少なく、軟らかいエサを確実にタナへと送り込むことが可能になっている。さらにへら鮒の寄りが増してどうにもエサが入らなくなったときには、ソリッドムクトップウキに交換することでナジミを良くし、エサ持ちを強化している。

高橋流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ 其の一:いかにしてエサを持たせるかに集約される「ヤワエサありき」のアプローチ

スタート準備がすべて整ったところで気がついたのが、ウキが大きめであることとハリスが短いこと。さらに仕上がったエサが基エサの時点で既にかなり軟らかめであることだ。

「私のエサが他の人よりも軟らかいことは自覚しています。なぜかと言うと、物心ついた頃からこんなタッチのエサでやってきたので、私にとっては慣れ親しんだタッチだからとしか言いようがありませんが、今でも何の不都合もなく釣れるので変えようと思ったことはありません。なによりもへら鮒にとって軟らかいエサは吸い込みが良くカラツンも少ないので、従って軟らかいエサであれば初めからトップスピードで釣り込むことも可能であり、これが最終的に釣果として大きな差になることは火を見るよりも明らかです。私の浅ダナ両ダンゴのアプローチはこの『ヤワエサありき』というところが起点になっているので、すべてはこの軟らかいタッチのエサをいかにしてタナまで持たせ、ウキをナジませて食わせるかにかかっています。つまり大きめのウキや短めのハリスセッティングは、そうした軟らかいエサを持たせるための必須アイテムなのです。」

およそ両ダンゴの釣りはふたつのアプローチに大別される。ひとつはしっかりめのエサを長めのハリスでゆっくりナジませ、寄ったへら鮒に揉ませる(削らせる)ことで食い頃のエサにして食わせるアプローチ。もうひとつは初めから食い頃のタッチに仕上げたエサをできるだけ揉まれない(止められない)よう一気にタナに送り込んで食わせるアプローチ。もちろん高橋のアプローチは後者だが、そのために煮詰められたタックルセッティングには一切の迷いやブレは見られない。

取材の際、スタート直後はへら鮒の寄りが悪く食いもやや渋り気味であったことから、一旦ウキをサイズダウンさせたりハリスを伸ばしたりと、想定外の釣況に戸惑いをみせた高橋。それでも陽が高くなるにつれて寄りを増し食い気の戻ったへら鮒に安堵の表情を浮かべると、さらにそこから激しい寄りへと変わり背びれを出して沸き上がるへら鮒に対し「ヨシ!掛かってこい!」と気合いを入れてギアを1段2段とシフトアップさせていき、彼本来のリズムを取り戻し、動画でも見られる通り、まさに〝瞬殺〟の名にふさわしい速攻の釣りを決めてみせたのである。

実釣を見る限り極ヤワダンゴゆえのヒット率の高さは明白だが、それでも食い気が落ちるとカラツンが続くシーンも見られた。そのようなときに高橋は少量の手水と擦りつけるような練り込みを加え、軟らかめのエサをさらなるヤワネバタッチへと変化させていく。彼のエサ合わせのプロセスは基本的にこの繰り返しであるが、問題は食うように軟らかく調整した折角のエサが持たなくなり、上層で叩き落とされアタリが出なくなってしまうことだ。これに対して高橋は、段階的にハリスを短く詰めることでエサをナジませやすくしていたのだが、その際ハリス段差にも1~2cmという微調整を加えることで、落下中のエサへの興味を維持できるようきめ細やかな配慮も忘れなかった。ちなみにこの日の最短は上15cm / 下20cmであった。

高橋流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ 其の二:タックル調整に決して躊躇はしない。思い立ったら即実行!

予想以上にウキが動かない時間帯をウキのサイズダウンとハリスを伸ばすことで乗り切った高橋。ウキの動きに良い反応が認められないときには驚くほど短時間で見切り、躊躇することなく次から次へと策を繰り出して行く。実にこの日のウキ交換は4回、ハリスワークは10回以上を数え、その都度悪い釣況を打破して見せた。

「今日は取材ということもあり普段よりも見切りはゆっくり、対策は少なめでしたが、大会や例会ではもっと速く見切り、交換回数・調整回数もかなり多くなります。自分が心がけていることは考えるよりもとにかく動くこと。釣りには〝絶対〟はないので、思ったことは即実行に移し、効果が見られなかったり、反対にさらに状況を悪化させてしまったときには元に戻したり、他に効果的な対策がないか模索を繰り返します。間違ったからといって別に命を取られる訳ではないので、とにかく実行あるのみです!」

これはアングラーの習性(サガ)なのかも知れないが、一旦釣れるセッティングが煮詰まると、それが釣れなくなって以降も知らず知らずのうちに釣れていたときのセッティングやアプローチに回帰してしまう傾向が見られる。しかし重要なことは刻一刻と変化する時合いに合わせてアングラーサイドもきめ細やかに変化に追従していくことであり、この点については頑固な高橋の姿は鳴りを潜め、ひたすらアタリを追いつつも的確な対策を随所に織り交ぜ、大きな穴を開けることなく釣り込んでいくのであった。

高橋流浅ダナ両ダンゴ釣りのキモ 其の三:沸き上がるへら鮒に対し、クールな状況判断でアタリを見極める!

スピーディーな釣りにも関わらず半信半疑のアタリには一切手を出さず、確実に食いアタリを見極めて釣り込んでいく高橋。とかく速い釣りというと、ウキが動くと何でもかんでもアワせるアングラーがいるが、彼はどんなにたくさんのへら鮒が水面に沸き上がろうが、余程自信のある戻しアタリ以外は縦に強く入るアタリに的を絞り込んでいる様子が有り有りとうかがえる。

「昔は結構イケイケの釣りで釣れ続いたものですが、現在では速いアタリを狙い過ぎるとウワズリを抑えきれなくなってしまうことが多いですね。そのため安定的に釣り込むためにはできるだけウキをナジませ、タナに入った瞬間に食わせるように組み立てる必要がありますね。目安としてはウキのエサ落ち目盛りを通過する辺りで出るアタリを最速のタイミングと位置づけ、遅くてもナジミきったウキがへら鮒のアオリで返した瞬間に出すように心がけています。そのためには丁寧なエサ付けはもちろんのこと、正確なエサの打ち込み(落とし込み)も大切なテクニックといえますね。」

水面は沸騰しても、決して頭は沸騰させない。これが平成の爆釣王の強さの秘訣かも知れない。

総括

現代へら鮒釣りは、気難しい大型べらの攻略なくして好釣果はあり得ないと言っても過言ではないが、こうした時流に逆らうがごとく、ひたすら数釣りに拘ることを自認してはばからない高橋は、ある意味希有なアングラーといえよう。しかしそんな彼だからこそ構築できた孤高のスタイルが、ハイテンポのリズムとスピードに裏付けられた極ヤワダンゴの釣りともいえるだろう。

「大型べらが主流となった現在、私の釣りスタイルは時代遅れとかズレているとか思われるかも知れません。しかし大型べら狙いばかりがへら鮒釣りではありませんし、今なお中小べらの多い釣り場では圧倒的に釣れる釣り方だと断言できます。確かに軟らかいエサを扱うことは簡単ではありませんが、ウキやハリスを中心としたタックルセッティングを誤りさえしなければ必ず釣れるはずです。要はトータルバランスを整えることが大切なのであって、たとえへら鮒の気に入るような軟らかいエサを作れたとしても、釣り方にマッチしない小ウキや長ハリスを使ったのではエサが持たずアタリを出すことは不可能。残り少ない暑い夏の釣りを、是非とも激ヤワダンゴ+大ウキ+短バリスという組み合わせで満喫してください。」