クロダイが悪食であるというお話しであるが、クロダイも人間が最初は母乳やミルクを飲んで成長していくのと同様、孵化して間もない仔魚と成魚では食べるものが異なる。体長5~6㎜以下の仔魚はギョウ脚類といわれるプランクトンのようなものを食べているが、成長するにつれアミ類やエビ類の幼生と柔らかい藻類。90㎜以上になると食性は幅広くなり小型の二枚貝、エビ類、カニ類、多毛類(ゴカイやイソメの仲間)などを食べ、成魚になるとエビ類カニ類のほかヨコエビ、ワレカラ類といった甲殻類、カラスガイを主体とした二枚貝、フジツボ類、アナジャコ、多毛類、などの海産動物のほか多種に及ぶ海藻も食べるようになる。
クロダイ釣りが各地で盛んに行われ人気が高い理由に釣り場が身近な場所にあることが大きいと言えるのだが、人間にとって身近な場所というのは海岸に面していても都市近郊も含まれるということになる。
我々の生活の場として利便性が良い河口や湾奥といった場所は他の海岸部よりも河川水の流入が多い傾向があるため、塩分濃度の変動も起こりやすく、また沖の海流からも遠ざかっていて、水深も比較的浅い場所が多いため気象の影響を受けやすく水温の変化が大きい。言ってみれば変温動物である魚にとっては住みにくい条件ということになる。
ところがクロダイは鯛科魚類の中でも最も強い低塩分に対しての抵抗性を持っている。ちなみに孵化後10日までの仔魚では真水:海水が3:1。孵化後20日までの仔魚では真水:海水が7:1~12:1。30日を超えたチヌでは30倍に希釈された海水(ほとんど淡水)でも耐えることが可能である。
更に水温に対する適応範囲も広く、夏期においては31~32℃という高水温に耐え、冬季では4~5℃でも生存可能。摂餌の限界水温は約6℃である。
ただこれだけ条件がめまぐるしく変化するという悪条件を備えた場所ではあるが、メリットも多い。例えば天敵となる大型魚食魚といえはスズキを除いてあまり見あたらず、物陰に潜むことを得意とするクロダイにとっては他の小型魚ほどの驚異とはならないのである。
また淡水と海水が混ざり合う汽水域と言われる場所には餌になる動植物が豊富にある。悪食であることはこうした環境に適応しているということであろう。
以下のグラフはそれぞれ釣り上げたクロダイの胃内容物についての出現頻度を示したものだ。
ここで重要なことは釣り初めてすぐに釣り上げたクロダイと、暫くしてから釣り上げたクロダイでは当然コマセを食べている量に違いがあり、言うまでもなく前者の場合はより自然の状態に近い胃の内容物であり、後者は釣り人の影響を大きく受けている。
コマセが投入されていない場合のクロダイの胃は殆ど空腹状態に近く、グラフにもある通り、季節を問わず手当たり次第に摂食していると考えられる。


一方コマセを投入してから釣り上げたクロダイの胃内容物は明らかに配合餌に含まれている成分が多く見いだされている。殆どのクロダイはコマセが効いてから釣り上げられることが多いので、コマセが如何に重要であるか言うまでもない。コマセの効果をより発揮させるためには投入したコマセが沈降途中で分散しすぎてしまうと良くない。
その理由は、コマセの中に入っている粒子が海底から離れた浅い場所で拡散してしまうことによりコマセを刺し餌の周囲に集中させにくくなるためで、結果としてチヌの摂餌範囲も広がり、仕掛けの近くに集めにくくなってしまうからである。一方餌取りが多い場合は、コマセを分散させて投入する必要もある。
配合エサにはそれらの状況に応じてクロダイを効果的に寄せたり摂餌行動を促進させる機能が備わっている。詳細は後の機会に述べさせて頂く。