稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第83回 石井旭舟の正統派段差の底釣り|へら鮒天国

管理釣り場・野釣り場の、最新釣果情報が満載!「へら鮒天国」

稲村順一が徹底レポート「釣技最前線」第83回 石井旭舟の正統派段差の底釣り

リニューアルから早2年。新生「段底」は、今や冬の食い渋り時には無くてはならない必携エサとして多くのアングラーに受け入れられている。その特徴はなんといってもエサ付けのしやすさとタナでの抜けの良さ。この相反するふたつの特性を両立させたメーカーの努力に敬意を表すると同時に、その技術力の高さは驚嘆のひと言に尽きる。その恩恵を享受することにより、我々アングラーは厳寒期の食い渋りにも自信を持って対峙することができる訳だ。そして迎えた2018冬。そのポテンシャルをさらに引き出しパワーアップさせたアプローチを披露すべく、マルキユーインストラクター石井旭舟が、連日〝好釣〟の報が伝えられている友部湯崎湖の桟橋に降り立った。気温は3℃、今シーズンの最低気温を記録したこの日、湖面からは大量の霧(水蒸気)が立ち上り、桟橋は凍結。段差の底釣り(以下、段底)の実釣には打ってつけのシチュエーションが整うなか、石井流正統派段底が静かにスタートし、そして徐々にその重厚さを増していった。

エサ落ち目盛りが出るからアタる、だから乗る!

「簡単と言ってはなんだが、段底って一番分かりやすい釣り方だと思わないかい?バラケをしっかり付けてウキをナジませ、タナで抜いたらエサ落ち目盛りが出てからのアタリに狙いを絞れば必ず釣れるんだ。段底でうまく釣れない人は、この基本が徹底できていないんじゃないかな。」

釣り支度を進めながらこう言い放った石井。これには記者も同感である。昨今のへら鮒釣りはいたずらに難しくしてしまっている一面があるが、本来へら鮒釣りは楽しみ方としての奥の深さこそあれ、決して難しいものではない。競技の世界で多くを望もうとすれば相応の難しさは避けて通れないが、厳寒期の食い渋ったへら鮒を一枚一枚じっくり釣り上げるのであれば、石井の言うように基本を徹底して実践すれば自ずと結果はついてくるものと記者は考える。

「厳寒期の段底は長いへら鮒釣りの歴史の中では比較的新しい釣り方で、まだ十分に知られていないところもある。知っている人なら下バリにタナ取りゴムを付けてタナを測ることなど当たり前のことだが、いまだに上バリに付けてタナを測り、そのまま上バリトントンでやっている人もいるくらいなんだ。しかも俺の知人のなかにはそんな段底で普通にアタリを出して釣ってしまう強者もいて、そうしたことから何も難しく考える必要はなく、やるべきことを徹底していれば自ずと釣れるものと信じているんだ。それが何かと言えば、もちろんエサ落ち目盛りを出すことに他ならない。これって知っている人にとっては当たり前のことだが、実はへら鮒に触らせて出すとなると口で言うほど簡単じゃない。やはりタナ取りに始まりバラケエサ・くわせエサ・タックルといったトータルバランスが整わなければエサ落ち目盛りは出せないんだ。だから今日はそのあたりの基本をしっかり見てほしいし、読者の皆さんに伝えたいと思っている。」

支度が調った石井は、キンと引き締まった朝の空気のなか、今シーズン初めてという段底の釣りを静かにスタートさせた。数投後早くもトップの戻しが早まり、石井が理想とするエサ落ち目盛りが出てからの力強いアタリで早くもファーストヒット。1枚目からコンディションの良い色白の良型が水面を割って出た。それではまず使用タックルから見ていこう。

使用タックル

●サオ
江戸川「旭舟 夢」13尺

●ミチイト
オーナーばり「ザイトへら道糸」フラッシュブルー1.0号

●ハリス
オーナーばり「ザイト・サバキへらハリス」 上0.6号15cm/下0.4号50cm
※下ハリスは活性が低下するに従い、 より細く長なる(冬場は50~60㎝が標準となる)

●ハリ
オーナーばり 上「リグル」8〜6号/下「リグル」4〜3号
※下バリはウドンで4号とし、小さなくわせを使うときは3号とする。

●ウキ
旭舟「技」六番
【1.2-1.6mm径テーパーパイプトップ15cm/ 6.0mm径一本取り羽根ボディ14cm/ 1.2mm径カーボン足5cm/オモリ負荷量≒2.0g/ エサ落ち目盛りは全11目盛り中7目盛り出し】

●ウキゴム
オーナーばり「浮子ベスト」2.0号

●ウキ止め
木綿糸

●オモリ
0.25mm板オモリ2点巻き

●ジョイント
オーナーばり「へら回転サルカン」20号

石井流段差の底釣りのポイント 其の一:10cm以上ズラしても構わない!絶対にくわせを底から離さないタナ合わせ

「どんなに良いバラケが作れても、どんなに仕掛けのバランスが決まっても、下バリのくわせが底から離れていてはサワリすら出ないことがある。それが段底の落とし穴なんだ。それを考えたら何をおいてもくわせを底に付けることが大事なんじゃないかい?それは1~2cmの誤差も許さないといった精度の高さを求めるものではなく、10cm以上ズラしたって構わないから絶対に底から離れないようにすることが肝心なんだ。段底が得意なアングラーからは『当たり前のことじゃないか』って言われそうだが、夢中になっているとこの当たり前のことを忘れてしまうことも少なくない。老舗の管理釣り場が多いいま、釣っていて底が掘れない(へら鮒の動きで堆積物が除去される状態)ところはないと思って良いだろう。釣り始めのタナ取りも大事だが、途中でウキの動きがおかしいなと感じたら、俺は必ずタナを測り直している。特にエサ落ち目盛りが出難くなっているときはタナが変わってしまっている証拠だから、億劫がらずにマメにやり直すことを勧めるよ。」

これは取材冒頭、底釣りには欠かせないタナ取り作業を進める石井に「段底で最も大事なことは?」と問いかけた際の答えだ。底釣りにおける石井のタナ取りは実に合理的である。手順については映像で確認いただくとして、まずはタナ取りゴムを下バリに付けて打ち込み、宙で決めたエサ落ち目盛りが水面上に出るようにウキの位置を合わせる。この状態で既にタナは3cm程ズレている感覚だと言い、通常ここからエサ打ちをスタートしてさらにズラシ幅を大きくしていくのが石井流のタナ合わせだ。この日タナを計り直したのは2度や3度ではなく、エサ落ち目盛りが出難くなったときはもちろんのこと、イメージどおりにウキが戻さないときや、良いアタリでヒットしない状態が続いたときは即座にタナを測り直し、確実にくわせが底に付いているという自信と安心感をもって臨んでいた。実際にタナが変わってしまったことによりアタリが出難くなっていたケースもあったが、ほとんど変化のないことも少なくなく、それにも関わらずタナを測り直した後で再び釣れるようになったことは実に興味深く、それだけでもタナ取りの重要性がお分かりいただけるだろう。

「ズラシ幅を大きくすることはカラツン解消にもつながるんだ。ただでさえアタリが少なくなる厳寒期に、苦労して出したアタリで空振っていたのではガッカリするだろう。ズラシ幅を大きくするとスレが多くなると言う人もいるが、エサ落ち目盛りが出てからのしっかりしたアタリを選んでアワせさえすれば、決してスレが多くなることはないんだ。」

石井流段差の底釣りのポイント 其の二:アタリを絞り込んでヒット率アップ!

アタリを選ぶという話が出たが、記者もこの点については聞きたいと思っていたところで、もちろん読者諸兄も知りたいポイントであろう。取材時は比較的ウキの動きも良く、アタリの選別について確証を得るにはうってつけのシチュエーションであった。

「宙釣りをやっていると、少しでも早いタイミングでアタリを出そうとしている人を見かけるが、段底はそもそも早いアタリが出難い厳寒期向きの釣り方なので、早さよりもヒット率の高さを求めるのがセオリーだろう。何より無理に早いアタリを出そうとしなくても、時合いになると連続して釣り込めるので、とにかく寄せたへら鮒を落ち着いた状態で釣り続けることが大事なことなんだ。俺が実践しているのは、エサ落ち目盛りが出てからのアタリに狙いを絞り込むことだけ。それも人為的、強制的ではなく、できるだけへら鮒にウキを戻させることが肝心なんだ。映像でも分かると思うが、フワッとした動きに連動してエサ落ち目盛りが水面上に出ると高確率でアタリが出て、しかもそのヒット率はかなり高かっただろう。これこそが段底の最大のキモであって、くわせを底に安定した状態(前述のズラシ気味のタナ設定)で位置させることができれば、へら鮒は安心してエサを食って来る。何も難しいことはないだろう?」

さらに段底ではどのくらいアタリを待てば良いのか?という質問を受けることが多いが、この点についての石井の見解はこうだ。

「基本的にはウキにサワリが出ていれば待つし、無ければ待たない。待つときはサソイを入れることも大事なことで、くわせを底から離してしまうほど大きな縦サソイ(くわせの置き直しともいわれている動作)や、小さく竿尻を引く引きサソイなどをタイミング良く繰り出すんだ。超が付くほどの食い渋った場面では、エサを打ち込んでから10分以上経ってからアタリが出ることもあるがそれは特殊なケースであって、ひとつ目安になるものを挙げるとすれば、周囲で釣れている人がアタリを待っている時間を参考にすると良いだろう。」

石井流段差の底釣りのポイント 其の三:しっかりしたくわせでハリスを張り、良いアタリを出す

取材フィールドとなった友部湯崎湖のへら鮒のコンディションの良さもあるだろうが、段底でヒットするのはいずれも良型ばかりで、水面に顔を出してもなお激しく抗い、しばしば石井を手こずらせた。それにしても明確なアタリを出すものだ。バラケが抜けて深くナジんだトップがエサ落ち目盛りまで戻してくると、10投に8投くらいはアタリが出て、その半分以上がヒットする。

「どうだい、良いアタリだろう(笑)。これはしっかりしたウドンを使っているためで、タナをズラシ気味にしてもハリスが張るから良いアタリとしてウキに伝わるんだ。もちろん浮力のあるパイプトップのウキも重要な役を担っていて、くわせからウキまで適度なテンションがかかり続けることで良いアタリにつながるのだが、1年のうちで最も食いが渋くなる厳寒期でも同じようなアタリが出せる訳ではない。実際には『感嘆』や『力玉』のような軽く小さなくわせでなければアタリが出ないような状況も少なくないが、一時的に食い気がアップしたときには、ウドンのようなしっかりしたエサにすると良いアタリで釣れ続くことが良くあることを覚えておいてほしい。これもまたエサが底に付いている底釣りの強みであって、だから俺もこの時期は常に数種類のくわせを用意しておき、状況に応じて使い分けるようにしているんだ。」

確かにこの日、友部湯崎湖のへら鮒はウドンを良く食った。同行したスタッフが使った「力玉ハードⅢ」でもよく釣れたことから、比較的へら鮒の食いが良かったことが分かる。しかし、これから迎える厳寒期を想定した場合、「感嘆」や「力玉」の方が良いときもあると石井は言う。くわせを使い分ける際に大切なことは明確な線引きをするのではなく、その時々でアタリの出るものを選択することであり、正解はへら鮒に聞いてみなければ分からないという答えであった。

石井流段差の底釣りのポイント 其の四:『段底』ならではのバラケの扱いやすさというメリットを生かしきる

近年の段底では、バラケの重要性がさらに増していると石井は言う。それは決して〝抜き〟ありきではないものの、石井が最重要ポイントと言ってはばからない「確実にエサ落ち目盛りを出すこと」につながるものとして、アタリが出る前に完全にバラケを抜くことがキモなのである。これは昔から段底のセオリーとして知られていることだが、大きく変わった点はその抜き方にあると石井は言う。

「以前の段底はバラケを持たせてウキを深くナジませ、そこからゆっくり抜いてやればそれなりに釣れたものだが、ここ数年の傾向を見ると通り一辺倒の抜き方ではアタリが出難くなっていることは確かだね。俺が意識しているのは抜くタイミングと抜き方で、ウキをナジませてすぐ塊で抜くのが良いのか、それとも時間をかけてゆっくり抜くとアタリが出るのかを、実際に試してみて判断するんだ。どちらかといえば最近はドップリ深ナジミさせるよりも2~3目盛りの浅ナジミから早抜きし、エサ落ち目盛りが出るまではアワせることを我慢して、確実なアタリに狙いを絞る方が良いね。特に厳寒期は今回使ったバラケをさらに手水で軟らかくしたものを丁寧にエサ付けして、1~2目盛りナジませただけで一気抜きするんだ。同じブレンドでも調整次第で様々なシチューションに対応できるのが『段底』の良いところで、エサ付け時には持ち過ぎるかなと感じるタッチでも、手水で硬さを調整すればスムーズに抜けるバラケになるし、チョット持たせたいなと思ったら丁寧に付けるだけでコントロ-ルできる。この自在性は他のエサにはないメリットで、これを生かしきることができれば食い渋りだって怖くないはずさ!」

取材時、石井にはスタッフのリクエストで数種類のバラケを試してもらった。なかには明らかに時期尚早といった厳寒期仕様のものもあったが、前述のブレンドパターンは石井が太鼓判を押す今シーズンお勧めのバラケである。集魚力に加え、寄せたへら鮒を騒がせないタナの安定性。さらには好時合いを長続きさせることができる持続性と、優れた点が多い。特にバラケを持たせることが苦手というアングラーにはお勧めのブレンドで、「BBフラッシュ」のまとまり感が「段底」の特性をさらに引き立て〝エサ付けしやすく抜けもスムーズ〟の看板に偽りなしのポテンシャルを発揮するバラケといえよう。

石井流段差の底釣りのポイント 其の五:きめ細やかなタックルセッティングへのこだわり

意外と言っては失礼かもしれないが、タックルの細部に至るまでトータルバランスを考慮して煮詰めていく繊細な作業が、正統派と称される鉄壁の段底を支えていることは紛れもない事実であろう。サオの長さひとつとっても、最初に継いだサオが穂先一杯のところにウキが位置するところで底をとることができないと判断すると、躊躇することなく別の長さの竿と交換し、後々予測される釣り難さを起こさない配慮を怠らない。先に紹介したタックルは取材時に煮詰められたものであるが、厳寒期にマッチするものと比較して異なる点を挙げてもらうと、

「ウキはそれほど変わらないね。俺はパイプトップウキが一番使いやすいと思っているからこれしか使わないが、皆が思っているよりも大きいかもしれないな。なぜこうしたウキを使うのかといえば、それはエサ落ち目盛りが確実に出るからに他ならない。もちろん厳寒期だってアタリは明確に出る。それから厳寒期になると確実にハリスは長くなるね。まともにアタリが出なければ60cm→70cm→80cmと長くするんだ。ここでひとつ大事なことを付け加えておこう。それは上ハリスと下ハリスの太さを変えておくこと。こうすることで上下のハリスの絡みや撚れを軽減することができるんだ。さらにバラケの抜き、持たせに関わる重要な部分として、明らかに抜きが良いときは上バリを『リグル』6号に、小さなくわせが良いときは下バリを『リグル』3号にする。やはり食いの渋い厳寒期は適度に繊細にした方が良いだろう。」

総括

頭で分かっていることでも、それを徹底してやり抜くことは決してたやすいことではない。だからこそやり抜く強い意志を持ち、実践している石井の釣りは正統派としてへら鮒釣り界で輝き続けているのだが、くれぐれも正統派とは決して古い釣り方ではないことを断言しよう。なぜなら日進月歩のへら鮒釣りにおいて長きに渡り結果を残し続けることは、今なおそのスタイルを進化させ続けていることの証なのだから。

「ただでさえ釣り難いと感じる厳寒期のへら鮒釣りだから、自ら難しくすることだけは避けたいね。繰り返しになるが、段底は極めてその仕組みが分かりやすい釣り方なんだ。タナまでバラケを持たせてそこで抜き、エサ落ち目盛りが出てからのアタリ一本に絞り込めば良い。正直言って迷う余地のないほど単純な仕組みだろう?もし皆がバラケのコントロールが上手くいかないと悩んでいるのなら、ぜひ『段底』をブレンドに加えてみてほしい。きっと狙い通り抜き差しができるバラケに仕上がるはずだよ!」